◆行動経済学とは、経済学と心理学を組み合わせた学問であり、人々の意思決定が完全に合理的ではなく、頻繁に感情や心理的バイアスに影響されやすいことを示す。従来の経済学は、人々が合理的に利益を最大化しようとする存在(ホモ・エコノミクス)を前提としていて、現実に観察される人間の行動を説明できないケースが多く残っていた。行動経済学によって、実際の人間による意思決定の多くを説明することが可能となっている。
◆行動経済学に含まれる代表的な理論としては、以下のようなものがある。いかに自らは感情やバイアスに過剰に影響を受けないように(合理的に)振舞いつつ、一方で他者の非合理的行動をビジネスチャンスに変えるかが重要である。
認知バイアス(Cognitive Bias):人々の意思決定が偏った思い込みや直感に基づく傾向を指す。代表的な認知バイアスとしては、アンカリング効果、確証バイアス、感情ヒューリスティックなどがある。これらのバイアスは、合理的な判断を妨げ、時に誤った決定を下す原因となる。
・アンカリング効果: 最初に接した情報(アンカー)が最後まで大きく影響する効果
・代表性バイアス: 典型例や代表的特徴に基づき判断する傾向。統計的に誤りである選択肢を選ぶ
・確証バイアス: 自分の信念に反する情報を軽視する傾向。批判的検証から逃げてしまう
・感情ヒューリスティック: ポジティブ感情を伴う選択肢を過大評価し、ネガティブ感情の場合はその逆となる傾向
プロスペクト理論(Prospect Theory):損失を過大評価し、利益を過小評価する人間の心理を示す理論。人々は同じ金額の利益よりも、同じ金額の損失をより強く避けようとする。このため、リスク回避的な行動を取ることが多い。
フレーミング効果(Framing Effect):同じ情報であっても、その提示方法によって人々の意思決定が変わる現象。たとえば「成功率80%」と「失敗率20%」は同じ意味を持つが、ポジティブなフレームの方が選択されやすい。
【Plus】経営者にとって、行動経済学を理解することは、顧客や従業員の行動を予測しやすくなるため、ビジネスに大きなメリットをもたらす。
チャンス:行動経済学の理論を長期的なマーケティング戦略に取り入れることで、顧客ロイヤルティを高めたり、ブランド価値を強化することができる。また、企業内での意思決定プロセスにも応用し、認知バイアスに陥らない合理的な経営戦略を構築できる。
リスク:バイアスに頼りすぎると、企業自体の意思決定が歪む危険性がある。たとえば、経営者が過度にアンカリング効果に影響され、非現実的な売上目標を設定してしまうことがある。
【Plus】オーナーとしての視点では、行動経済学の理解がM&Aでの失敗を回避し、成功の可能性を高める洞察を深めることができる。過剰な思い込みや損失回避に陥らないよう、また、できる限り合理的に期待できる最大の成果を目指せるよう、有益な情報を収集し、必要な売却準備を実行することが重要である。