◆断念とは、M&A売主にとってのM&A交渉の顛末の1パターンであり、M&Aアドバイザー等に対象企業の売却支援を依頼したものの、結果として具体的な買主からの超初期的関心(NDAを締結し匿名解除する程度の薄い関心)すら得られないまま、案件が終了してしまった場合のことを指す。

【Plus】優良なM&Aアドバイザーに依頼すると「断念」になりにくい背景
優良なM&Aアドバイザーは、「打診予定の買主候補リスト」を売主に見せ「打診してもよい買主かどうか」を確認する(ネームクリアランス)。売主の希望に合致せず、交渉が進んでから「破談」になるくらいなら初めから打診しない方が全員にとって望ましいし、不必要に「情報漏洩リスク」を増やさない方が、売主の利益に資するからである。「断念」(NDAすら入らない)ということは、売主の買主選定基準が厳しすぎるか、M&Aアドバイザーが能力不足で良い買主候補を抽出できていないか、そもそも買主候補がいない対象企業なのか、である。優良なM&Aアドバイザーが担当するM&A案件で「断念」で終わったというケースはまず聞かない。受託時に売主の希望や対象企業の状況をしっかり確認しているからである。
【Plus】悪質・無能なビジネスブローカーに依頼すると「断念」になりやすい背景
一方、ビジネスブローカー(BB業者)の場合、「断念(NDAすら入らない)」に終わるケースが多いと聞く。特に、悪質・無能BB業者の場合「買主候補の選定をBB業者に一任させ、売主はNDAの相手先を見て、買主候補の名前を初めて知る」というケースもあるようである。特に効率重視のBB業者(両手成功報酬のM&A仲介業者)の場合、そもそも売主の利益を「成約(まとまればよい)」と定義しており、成約の可能性を減らす「買主候補の絞り込み」はNG行為なのであろう。そこまでして買主候補を広げてもなお「断念」に終わるということは「そもそも成約不可能な案件なのに受託している」ことを意味する。実は、BB業者にとっては「売却案件リストに一行足せる」という効果がある。つまり、大事なリピーター買主に営業訪問した際に「うちは案件いっぱい持ってますアピール」ができる。さらに、売主から着手金やリテイナー等を受領できれば、最高効率(ゼロ負担で売上計上)なので、受託できそうなら全部受託するのである。
【Plus】「断念」当然の業者はどこにでもいる
ノルマの厳しい会社のサラリーマンにとって毎週の営業会議で報告する「今抱える見込み案件の数」は死活問題である。1件でも多くの「見込み案件」がほしい。特に、ノルマ到達が遠い人ほど、絶対無理そうな案件でも受託に躍起になる。これは、効率重視・件数重視のビジネスブローカーで発生しやすい状況ではあるが、実は、超一流企業のM&Aアドバイザーの会社でも起こりうる。コンプライアンスに厳格な会社なのに、目の前の痛みから逃れるために飛びついてしまうのである。売主は、耳ざわりの良い営業トークばかりの業者の言うことを信じすぎない方がよいかもしれない。むしろ、売主の利益を本当に考えているからこそ(一時的に気分を害してしまうリスクがあるのに)あえて耳ざわりの悪い事まで言ってくれる人をこそ信用した方がよいだろう。こういう人は「売れそうもない」と思ったら「売らない方がよいでしょう」と言ってくるし、「欠陥や課題」に気づいたら「今すぐ売ると損ですよ。少し売却準備してから売却活動に入りましょう」と提案してくれるものである。