◆借地借家法は、土地や建物の賃貸借契約における借主(テナント)の権利を保護するために制定された法律である。普通借家契約では契約更新が基本的に保証されており、借主が住居や事業の安定的な利用を確保できる。一方で、定期借家契約では一定の条件下で契約更新を排除することが可能であり、貸主の権利も一定程度保護されている。
◆定期借家契約とは、契約期間満了時に契約が終了することをあらかじめ合意することで、借主保護を緩和する契約形態である。普通借家契約と異なり、契約期間中に借主の権利を強く保護しない代わりに、貸主は正当事由なしに契約終了を実現できる。
・契約書を必ず書面で締結する。
・契約内容について事前に借主に十分説明する義務を負う。
・契約期間満了を通知する期間を守る(原則1年から6カ月前までに通知)。
◆普通借家契約では、借主の強い権利保護が規定されており、貸主が契約を解約または更新拒絶するには「正当事由」が必要となる。この正当事由には、貸主の利用目的、借主の生活基盤の確保、地域の慣行などが含まれる。結果として、貸主が簡単に契約を終了できないため、不動産戦略の柔軟性が制限される。
◆法人が事業用の建物を賃貸している場合のリスク:
▽普通借家契約のリスク:
・正当事由がない限り契約解除が難しく、賃貸条件の改善機会があっても実現が困難となる。
・借主が退去を拒否する場合、立ち退き料を支払わざるを得ないケースが多い。
・契約の長期化に伴い、賃料が市場価格より低位安定してしまうリスク。
▽定期借家契約のリスク:
・借主が短期契約を避け、空室が長期化するリスクがある。
・契約時の説明義務や契約満了の通知義務を履行しない場合、強制退去が無効になる可能性がある。
◆ 法人が事業用の建物を賃借している場合のリスク:
▽普通借家契約のリスク:
・貸主が賃料増額を請求した場合、拒否するには正当な理由が必要。
・長期契約と途中解約違約金が義務付けられる場合もあり、事業環境の変化に迅速に対応できない。
▽定期借家契約のリスク:
・契約期間満了時に退去を強制されるため、事業見通しに不安定要素が含まれる。
・再契約時に条件変更が発生し、コスト増加のリスクがある。
【Point】M&A売主が気を付けるべきポイント
▽賃料水準、契約期間が市場の平均水準より不利な条件であれば、売却準備の中で条件の改善を試みるべきである。逆に有利な条件であれば、条件を持続できる根拠を探す又は作ることができると望ましい。
▽買主の買収後戦略によっては、M&A実行後、対象企業の本社の移転や店舗の統廃合が生ずる可能性もある。買主の買収後戦略を早期に確認できれば、DD期間などの時間を利用し、問題を発見して改善を図るべきである。買主の誠実性に確信を持てる場合、その顛末について買主と共有し善後策を検討すべきである。