◆確定値とは、暫定値や見通しや計画値等の「将来系の財務数値」ではなく、決算として(一旦)確定した対象期間及び基準日(または月次、四半期や年度の決算など)の「過去系財務数値」を指す。
◆確定値にミス等が見つかり確定値を洗い替える必要が生じるケースがある。修正値と前確定値との差異を丁寧に説明することによって、逆に信頼性を高めることが可能になる。
◆過去形財務数値には、調整値や試算値もある。確定値と実力に差異がある場合(未上場オーナー企業の場合は大半)、想定するM&Aスキームなどに伴って、これらの必要性が生ずる。目的に応じて使い分けることが重要である。
【Plus】M&Aバリュエーションで本当に重要なのは、「買主が、対象企業の経営権を譲り受けてから、享受しうる「将来」のキャッシュフロー(FCFやEBITDA)」である。しかし、事業リスクは多岐に亘り、将来の財務数値には不確実性が伴うため、直近数期の「確定値の水準やトレンド」は非常に重要な参考値となる。「確定値の水準やトレンド」と連続的なら信頼性は高くなりやすく、非連続的であるなら低くなりやすい。会社を高く売るため、非連続的に成長する計画値等を買主に開示したい場合、根拠を伴った合理的な説明が不可欠となる。
【Plus】中堅中小企業の売主オーナーが初めてM&A会社売却を行う際、財務数値の外部信頼性が非常に重要である。特に、未上場オーナー企業の場合、決算書は、融資銀行や税務署に提出するだけにとどまり、リスク投資家の目に触れることを想定していない。顧問税理士がチェックしているとしても、その信頼性を担保する仕組みが、財務会計(つまり外部報告システム)としては弱いケースが多い。
【Plus】「税金を50減らす、株式価値を500増やす、どちらか一つだけ。どっちがよいですか?」という質問を売主オーナーにすることがある。同じ会計でも、税とM&Aでは善悪が逆になる。税理士的に最高の決算とM&A的に最高の決算は別ものなのである。「税務上の所得(=会計上の利益(±益金損金算入不算入の調整))を小さくした方が税金を少なくできる(経営者はうれしい)。しかし、M&Aで一番大事なボトムの数字(利益、キャッシュフロー)が小さくなると事業価値が過小評価される(経営者は悲しい)。税理士は税務会計しか学んでいないので、もっと大事な財務会計の視点が抜けているため、調整が大変なケースも少なくない。M&Aアドバイザーから見ると「良かれと思いながら、売主の足を引っ張っている」と評価せざるを得ないのである。
【Plus】確定値は、「既に経過した過去期間での実績であり、準拠する会計規則に照らし適切な会計処理を全て反映させた財務数値のこと」と外部のリスク投資家(買主)は期待している。しかし、大半の会社は財務諸表監査の義務がなく、未監査の確定値を利用するしかない。そのため、買主は財務デューデリジェンスを通じ慎重に正確性等を確認するわけであるが、税務会計レベルだと、高度な財務会計報告を求められる上場企業買主等から見て「多くの時間、労力及び専門家報酬をかけ、財務会計を根本的にブラッシュアップする必要性」を感じさせてしまう。つまりPMIコストが馬鹿にならないということである。PMIコストは下手をすると億円単位となる。そのため高く売りたいなら売却準備が重要なのである。
【Plus】一方で、売主オーナーは、M&A会社売却の行方が不確かなタイミングで、自分としては必要性を感じない高度な財務会計報告体制を費用をかけて構築するわけにはいかない。しかし、M&Aの条件交渉において重大なディスカウント要素になる以上、一定の範囲で対策は講じるべき、というのは理解できるはずだ。少なくとも、低コスト短期間で可能な準備(例えば、使い物にならない古い会計ソフトからフレキシブルで堅牢な会計ソフトへの移行、会計ソフトの入力基礎となる事業データの補充・整備など)は、どのような買主が見つかるとしても(最悪、結局見つからないとしても)無駄にはならないはずである。
【Plus】未上場会社でも、スポットで自主的に監査を受けることが可能である。独立監査人による監査を受け、適正意見を受領していれば、信頼性は非常に高くなり、不必要なディスカウントを回避できる。会計についてしっかりやってきた自負のある売主は、検討してもよいかもしれない。費用はかかるがそれ以上の価値がある。