◆アンゾフの成長マトリクスとは、企業の成長戦略を「商品/サービス」と「市場」の2軸で分類し、以下の4つの戦略パターンを示したフレームワークである。
既存市場 | 新市場 | |
---|---|---|
既存商品/サービス | 市場浸透戦略 | 市場開拓戦略 |
新商品/サービス | 商品開発戦略 | 多角化戦略 |
◆ アンゾフの成長マトリクスは、企業価値向上を目指すための戦略選択の指針となる。
▽市場浸透戦略(Market Penetration):既存市場での既存商品/サービスのシェア拡大戦略。
・価格戦略、営業・販促強化、流通網拡大やブランド力向上など。
・売上拡大のためのコスト増、競争激化のリスクとの平仄を考慮すべき。売上やシェアに目が向きすぎてキャッシュフロー創出力が低下すると企業価値は逆に縮小する。
▽市場開拓戦略(Market Development):既存商品/サービスを新市場へ投入する戦略(地域拡大、海外進出、新たなターゲット層の開拓など)。
・新市場への参入、異業種や現地企業との業務提携、新マーケティング手法の採用など。
・市場規模拡大による長期的成長が期待できるが、市場適応リスクが伴う。できるだけ新市場に精通した人材に指揮を取らせる等の情報収集のアンテナ設置が不可欠。
▽商品開発戦略(Product Development):既存市場向けに新商品/サービスを開発・提供する戦略。
・研究開発(R&D)、製品改良、パッケージ変更、機能追加など。
・差別化による競争優位を築くには、相応の開発改良コストが生ずる。開発コストをオープン・イノベーションを活用するなどして抑制する工夫が求められる。
▽多角化戦略(Diversification):新商品/サービスを新市場へ投入する戦略。
・新事業の立ち上げ、M&A(買収)、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)、ジョイントベンチャー(JV)など。
・単独で見ればハイリスクでも、全体で見ればリスク分散につながる。経営資源の配分最適化、事業間のシナジー最大化・逆シナジー最小化などに配慮すべき。
【Plus】アンゾフの成長マトリクスを活用し、経営者が企業価値を向上させる際のポイント
▽企業価値に着目:売上ではなくキャッシュフロー、短期視点ではなく中長期視点を重視すると、企業価値の評価額が高まりやすい。キャッシュフローのサイズ、安定性、収益性、成長性をバランスよく向上させ、かつ、大きなダウンサイドリスクを排除していくと、最速で企業価値のポテンシャルを実現することが可能となる。
▽成功体験に固執しない:過去の成功体験に固執すると、不毛な市場浸透戦略を続ける(いわゆるレッドオーシャン戦略)ことになる。リスクがあるとしても大きなリターンが見込めるのは新分野であり、既存事業で培った独自の強みを生かせる新分野に挑戦することが重要である。オープンイノベーション(資源獲得の柔軟性・スピード)やエフェクチュエーション(不確実環境下での成功確率向上)といった考え方を柔軟に取り入れることで、コストやリスクを抑えながら、新たな分野での成功を実現しやすくなる。
▽集中と分散:集中と分散は、流行のようなものがあるが、どちらかが正解ということではなく、環境次第、目標次第で最適なバランスは変わってくる。一般に、企業規模が小さいほど集中するしかなくなるが、ある程度の規模になれば、リスク分散が企業の安定性や持続可能性を高めることになる。
【Plus】アンゾフの成長マトリクスを活用し、M&Aで高く売るポイント
▽買主の視点から俯瞰:「M&A買主企業の既存事業」でアンゾフの成長マトリクスを作成し、対象企業の事業をあてはめてみると、「買主企業のM&A後の事業ポートフォリオ戦略」を概観することができる。どのようなアピールをすれば効果的か、M&A売主が合理的に考え抜くきっかけとなりうる。
▽4領域すべて:対象企業とのシナジーが見込めるなら高額売却を期待しやすい「多角化戦略」以外にも、すべての領域でM&Aの可能性がある。ただし、買主の既存領域と重なるほど、買主のM&A目的が「事業(シナジーやリスク分散)」ではなく「経営資源(顧客がほしい、人手がほしい)」となりやすく、株式価値の評価額というよりも「経営資源の調達コスト」で評価されてしまう、いわゆる「同業安売り問題」につながりやすい点は注意が必要である。
▽挑戦と売却のタイミング問題:M&A会社売却を予定するオーナー経営者であれば、新分野チャレンジに付き物のJカーブ(キャッシュフローへの当初ダメージ)と売却タイミングの前後関係をよく考えておくべきである。成功が見込めるなら売却予定であろうが(であるからこそ)積極的にチャレンジすべきである。成功すれば株式価値が大きく増大するし、万が一失敗しても優良なM&Aアドバイザーを起用すればバリュエーションで不利にならないよう工夫してくれるからである。