◆監査済みとは、M&A取引の買主に開示する対象企業の財務諸表(年度決算書や半期決算書等)の信頼性を示すステータスである。独立外部監査人が、対象企業の財務諸表が採用する会計基準に準拠して適正に表示しているかを監査基準に準拠して監査した結果、無限定適正意見を入手できた場合には、「監査済み」と表示することで、最上級の信頼性を提示することができる。監査中の監査人からの指摘に対処して修正が間に合わない場合には、「限定付き適正意見」や「意見不表明」や「不適正意見」が付されるリスクもある。
◆監査とは、保証業務(Assurance)であり、非常に高い信頼性がある。その一つ下の信頼性での外部者による数字検証に「レビュー」があり、これは合意された手続き(Agreed Upon Procedure)であって、買主が実施するデュー・ディリジェンスはこちらに分類される。半期や四半期の財務諸表も監査手続きよりも簡略化されたレビューによって信頼性が付与されることが多い。
◆M&A開示資料内の財務情報は、決算書などの確定値よりも、真の実力を示す調整値(調整EBITDA等)や、M&Aスキーム等を考慮した試算値の方が、バリュエーション上重要である。しかし、いずれの財務数値も、確定値を基礎に算定するものであり、確定値が「監査済み」であれば、買主に与えられる信頼性は最も高まりやすい。
【Plus】「独立外部」が監査人には必須なのに、もっと大事なM&A業者の選定では不要
独立した外部の監査人でなければ、監査業務を受託してはならない。当然である。監査は財務諸表利用者(投資家や取引先など)の利益を保護するため、粉飾等を暴き、適正な業績や財政状態を示すことを目的としている。監査対象企業が監査以外の業務の顧客であれば、つい監査で手心を加えてしまうのが人間である。監査だけではない。例えば、M&A取引で弁護士に契約業務や法務DDを依頼する際、弁護士法人内でのコンフリクトチェックが入り、M&A取引の当事者との業務が既にあれば、コンフリクトありとして受託不可となる。大きなお金がちょっとした判断の差で動く業界では、厳格なコンフリクト規制があるのが当然なのである。例外が、不動産仲介やM&A仲介である。
最も売主の利益を保護し、売主と買主間でのリスク・リターンを売主有利に分配する機能を担うセルサイドのM&Aアドバイザー等は、利益相反やりたい放題なのである。政府公認で(穴だらけのガイドラインはあるが)やりたい放題である。両手報酬契約(M&A仲介契約)は、買主の便宜を図るインセンティブと、売主の便宜を図るインセンティブを併せ持つ。ここで考えてほしいのは、頻繁に買収する買主(フリークエント・バイヤー)と、一回会社を売ったら二度とお客にならない売主のどっちの利益を重視するか、である。騙しやすいのはどちらであろうか?何度もM&Aをやっている買主か、初めて会社を売る売主か。
しかし、常時片手報酬のFAは、コンフリクトチェックを厳格に行う金融機関や、独立系M&Aブティックハウスが担っている。一部金融機関ではM&A仲介業務を提供してしまっているし、表面的にはM&A仲介業者なのか判別がつきにくい。利益相反に関する批判が殺到したので「普段はM&A仲介だけど、気になるならFAでもいいですよ」という「ときどきFA」という方法で批判を躱す業者も増えている。しかし、普段から甘い蜜(負担が少なく儲けが多い)を吸っている人が、急に改心して顧客に対して誠実になり、今まで「中間の立場なので一方に与することはできない」と逃げていた、高度の知識やスキルを要する重い負担の業務で力を発揮できるだろうか?悪質・無能ビジネスブローカーを雇ってしまうと、特に売主が被害に遭う危険が高まる。やはり、原理原則に従って、甘い蜜を自ら拒絶した「常にFA」の優良なM&Aアドバイザーから、必要な知識・スキル・経験を持ち、相性も良い人を選ぶべきである。
M&A仲介業者のM&A仲介業務: 利益相反OK ←ここだけおかしい
FAのM&A助言業務: 利益相反NG ←これが原理原則
弁護士の契約業務: 利益相反NG
弁護士のDD業務: 利益相反NG
公認会計士のDD業務: 利益相反NG
公認会計士のバリュエーション業務: 利益相反NG