◆限定合理性とは、人間が意思決定を行う際に、完全な合理性に基づいて最適な選択をすることが困難であるという考え方である。
◆これは、情報の不完全性や時間的・認知的な制約が原因で、人々が限られた情報や能力の中で「十分に良い」選択を行うことしかできないという仮説である。ハーバート・サイモンによって提唱されたこの理論は、従来の経済学における「完全に合理的な意思決定者」の前提に対する現実的な修正を提案している。
◆代表的な理論としては、以下のものがある:
満足化戦略(Satisficing Strategy):最適解を見つけるのではなく、一定の基準を満たす選択肢を「十分に満足できる」として選ぶべきとする戦略。これは、膨大な選択肢をすべて評価するコストを削減し、迅速な決定を行うための現実的なアプローチと言える。
ヒューリスティックス(Heuristics):複雑な問題をシンプルなルールに基づいて解決するためのショートカットや経験則に基づく直感的な判断方法のこと。これにより、意思決定プロセスが効率化されるが、バイアスやエラーの原因にもなりうる。
【Plus】経営者にとって、チャンスとしては、意思決定を迅速化するために、ヒューリスティックス(直感)を活用し、競争優位を築くことが可能が場合がある。特に、不確実性が高い環境では、限定合理性に基づく素早い意思決定(及び試行錯誤)が有効となる場合も多い。一方、リスクとしては、ヒューリスティックスに基づく意思決定が、本来回避できた落とし穴を見落とし大きな失敗につながる場合もあることである。客観的に批判的検討を行う慎重さも求められる。
【Plus】M&Aを検討するオーナーとしての視点では、M&Aという取引は、多くのオーナーにとって有する情報が極めて不十分であり、満足できるかどうかの判断を下す能力に欠け、直感も働かないという点である。つまり、合理的意思決定も満足化意思決定もできない。結果として、偶然目に留まった選択肢に飛びつくリスクがある。逆に言えば、M&A業者、特に積極的にコールド営業で売主開拓をするビジネスブローカーは、このような状況をいくらでも利用できるという点である。