◆ブランドエクイティとは、企業が長年かけて構築した「ブランドの礎(いしずえ)的な価値」を指し、消費者がそのブランドに対して感じる信頼や好意、認知度がどの程度強いかを示す概念である。
◆強力なブランドエクイティは、価格競争に影響されにくく、消費者がそのブランドに対してロイヤルティを持つため、企業の長期的な収益力に貢献する。低価格の競合商品への顧客流出を防止するための最大の武器と言える。
◆短期的な認知広告や集客広告によって認知や購買を増加させることはできる。しかし、ブランドエクイティは一朝一夕に強化されず、一方で、長年かけて構築した商品やサービスに対する信頼があるため、(消費者の信頼を喪失するような重大な不祥事等があれば別だが)通常は簡単に劣化しない。消費者の脳に「ポジティブな長期記憶」として埋め込まれているからである。
◆ブランドエクイティが強力であるほど、広告や開拓営業の効果が底上げされ新規顧客を獲得しやすく、顧客解約率(チャーンレート)も低下するので既存顧客を維持しやすい点がわかりやすいメリットである。
◆目先の収益を追うあまり、商品・サービス価値を低下させたり、マッチポンプ押し売り(ペインを作ってソリューションに課金)を仕掛けると、消費者も馬鹿ではないので、ブランドエクイティは徐々に棄損されていく。飽和社会で勝ち続けるには顧客視点を徹底し、顧客の信頼を強化していくことが重要である。
【Plus】M&Aでは「高収益・安定的・成長期待のあるEBITDAやFCF」は「高いEBITDA倍率」や「低い割引率」という形で企業価値の評価において絶大な貢献をしてくれる。強力なブランドエクイティは、高収益・安定・成長の根源と言え、すなわち企業価値の最大要素、つまり最重要な経営資源である。M&A買主視点で見ても、一朝一夕に構築できないからこそ、Make(自力で調達)ではなくBuy(買って調達)しかないため、M&A競争環境も構築しやすい。M&A売主の最大の武器の1つということである。
【Plus】インターブランド社が有名企業のブランド価値を測定し、金額ベースで公表しているが、M&A会計でも、PPA(Purchase Price Allcation)のプロセスの中で、対象企業のブランド価値を無形資産の1つとして会計上認識評価することがある。会計上ののれんは、買収対価と簿価純資産の差額であるため、ブランド価値を無形資産として認識評価すると、簿価純資産が切り上がり、結果のれんは小さくなる。のれんは償却資産であり数年間営業利益を圧迫するため敬遠されがちであるが、強力なブランドエクイティを構築できている場合、減損処理の対象にもなりにくく、のれん償却負担も小さくできる。M&A売主は、インターブランド社の評価手法(1. 財務分析、2. ブランドの役割、3. ブランド強度)についてじっくりと考えを巡らせてみると、有意義な発見があるかもしれない。
【Plus】M&A売主が、ブランドエクイティを高めることでM&A会社売却を大成功させようと考えるのは、大正解であり、王道中の王道でもある。しかし、ブランドエクイティの育成には時間がかかる。そのため、M&A会社売却の5年前くらいには、M&A企業価値評価の視点を重視した売却準備を開始することが推奨される。具体的には、消費者の意見を収集、商品・サービスの改良改善、広告キャンペーンの強化や顧客ロイヤルティプログラム導入などの施策を実行し、かつ、「M&A買主向けの見える化」にも配慮する必要がある。
【Plus】M&A売主は、ブランドエクイティに関する情報を的確に開示することが重要である。具体的には、市場シェア、消費者認知度、顧客ロイヤルティ指標、過去の広告投資とROIなどを提示し、M&A買主に対してブランドエクイティの価値を具体的に訴求する。
【Plus】M&A買主にとっては、ブランドエクイティの価値が企業価値の大きな部分を占める場合があるため、その評価は慎重にならざるを得ない。しかし、既存の顧客基盤を活かしてクロスセルやアップセルを促進、さらにブランドを活用した新市場進出、他ブランド協働やライセンスビジネス展開などのシナジー効果発現のための施策を現実的に考えることができる。M&A売主は、M&A買主にとって使いやすい情報を開示すると評価が高まりやすくなる。