◆事業価値とは、対象企業の主要事業の価値のことを指す。企業価値や株式価値といった企業の価値概念の中で中核となるものである。株式価値を高めるためには事業価値を高めるしかない。売主は、事業価値が過小評価されないよう、高く評価してもらえるよう努めることが重要である。

◆事業価値は、対象企業の主要事業がどれだけ余剰キャッシュを生み出せるかを表している。具体的には、主要事業から生まれる将来期間の期待フリーキャッシュフローの現在価値の合計、または、調整EBITDAに適正倍率を乗じた金額である。つまり、DCF法もしくはEBITDA倍率法で評価する。
◆株式価値を算出するため、事業価値⇒企業価値⇒株式価値というステップを踏む。「まだ何もしていない会社」か「もう何もしない会社」でもない限り、いきなり株式価値を算出することは不可能だからである。大規模M&Aでは両サイドがギリギリの攻防を繰り広げるため、バリュエーションだけでも個々の要素を徹底分析しながら1か月以上の時間をかけて算出することもある。

◆DCF法では、フリーキャッシュフローの現在価値として事業価値を算出する。フリーキャッシュフローは、EBITDAと異なり、運転資本増減、固定資産への投資・回収、実効税率や臨時収入・支出など、対象企業固有の要因まで網羅的に考慮できる。また、DCF法では、財務モデルを通じ、将来の複数期間(3~7期程度)のフリーキャッシュフローを予測するため、対象企業固有の将来の変動要因まで反映できる。しかし、将来期間の予測には不確実性を伴うため、上場類似会社との比較で、対象企業固有の変動要因が少ない場合、EBITDA倍率法などの簡便な評価手法でも特に問題はない。中堅規模以上のM&Aやユニークな要素の多い中小規模以上のM&Aであれば、売主は、買主が実施する前にDCF法を含むバリュエーションを実施すべきである。M&A交渉の目標を設定できるからである。
◆EBITDA倍率法では、対象企業の調整EBITFAに、上場類似企業のEV/EBITDA倍率の統計採用値の積として事業価値が算出される。1期間の不完全な調整EBITDAのみで事業価値を算定するため、DCF法に比べると簡便な評価手法と言える。つまり、対象企業と上場類似企業は「EBITDAとフリーキャッシュフローの差異が事業規模比例で発生する」「将来期間において同じ比率で増減する」という仮定を置いている。この仮定が大きく崩れる対象企業の場合、つまり、上場類似企業よりも効率的な運転資本、資本的支出、高い成長性などがあるなら、EBITDA倍率法では事業価値を過少に算出してしまうことになる。
【Plus】M&Aアドバイザーとは
そもそもM&Aアドバイザー(≒FA)とは「財務モデルを操って、DCF法やEBITDA倍率法のバリュエーションを実施し、その結果やその詳細な要素について、バイサイドの事業実施者本人やバイサイド専門家に合理的に説明し、売主の希望を叶えることができる人」のことを指す。つまり、売主が優良M&Aアドバイザーを雇えば、事業価値の算定や説明を専門家としてやってくれて、最大の価格で売るためのあらゆる努力をしてくれるはずである。
【Plus】いつでも相談できる「絶対的味方」を確保しておく重要性
M&Aアドバイザーは、例えば、M&A交渉期間中に臨時異常な事態が発生したら、M&A売主の利益を叶えるための最善の方法を考えて助言してくれるだろう。マクロ環境、金融環境、政治問題、天災、疫病などの外部環境や、重要な人材の離職、重大な事故、想定外の行政からの通知など、事業価値に重大な影響を与えるイベントはいつ起きてもおかしくない。「売主の絶対的味方」になってくれるM&Aアドバイザーを雇っておくと安心である。電話一本で即座にM&Aアングルから新たなアイデアを出したり、代わりに徹底調査をしてくれる。