◆減資とは、株式会社の資本金を減少させる手続きを指す。減資には、実際に株主に払戻しを行う「有償減資」と、払い戻さない「無償減資」がある。
◆減資するには、以下の手続きを実施する必要がある。
▽株主総会決議:減資を行うには、株主総会特別決議が必要である(会社法第447条)。決議要件は、株主総会出席株主の議決権の3分の2以上である。
▽債権者保護手続:会社の資本金の減少は、債権者の回収リスクを危険に晒す、との考えがあり、所定の債権者保護手続きが会社法で要求される。
・公告:定款で定める公告方法に従い、官報などで減資に関する公告をし、債権者に異議を申し立てる機会を与える(1ヶ月間以上の異議申し立て期間が必要。到達主義)。
・催告通知:知れたる債権者に対し、個別に減資の予定と異議申立に関する通知をする義務がある。(原則は全債権者であるが、即時弁済に支障のない債権者を除く等の負担緩和を図る場合もある)
・異議への対処:債権者から異議が申し立てられた場合、債務の即時弁済または担保の提供等をする。
▽登記:減資手続き完了後、資本金の額の減少について変更登記申請をする必要がある。
◆減資の効果とメリット・デメリットには以下を挙げることができる。
▽メリット:
・剰余金分配原資の確保:減資により、資本金の一部を剰余金に振り替えることで、配当や自己株式取得のための原資を確保できる。特に、株主との契約において配当が義務とされ、配当しない場合のペナルティが重い場合、会社の存続にも影響するため減資によって緊急事態を乗り越える必要がある。なお、減資による配当を実施した場合、税務上の取り扱いには注意を要する。
・中小企業優遇制度の利用:多くの政府系の中小企業支援制度は、中小企業等の定義を資本金の多寡で定めている。減資により、資本金を各種中小企業等の定義の範囲内(1億円以下や5,000万円以下など)に抑えることで、優遇税制や補助金・助成金などの経済メリットを受けやすくなる。
・財務的な見栄え改善:資本金をその他資本剰余金に振替え、マイナスの繰越利益剰余金と相殺することで、過去の欠損を解消・縮小することができる。貸借対照表の見栄えを改善でき、形式的な審査を突破できる等の実益を得られる場合がある。
▽デメリット:
・業績低迷のシグナル:一般に減資を実施するのは業績低迷企業であるため、減資を実施することで、社外にネガティブな印象を与えてしまう場合がある。
・手間やコスト:減資を実施するには一定の手間やコスト(司法書士の報酬、公告、通知郵送、登録免許税等)がかかる。また、債権者が異議を申し立てた場合、即時弁済をすれば、当初予定よりも早い段階でのキャッシュアウトとなってしまう。
・会社案内やホームページ:顧客や取引先向けの情報提供の中に、会社基本情報の項目として資本金を公開している場合、減資後の金額に変更する必要がある。ただし、「資本金」を「資本金等」や「資本金及び資本準備金」等と表現を変更すれば、金額は変更しなくて済む(剰余金分配や欠損相殺をしていない場合)。
【Plus】増資時等の注意点
▽払込全額を資本金に計上しない:会社設立や増資の際、払込額のすべてを資本金に計上すると、中小企業優遇制度を利用できなくなる可能性が高まる。払込額のうち半分を資本金とし、残りを資本準備金とすることで減資せざるを得なくなる可能性を小さくできる。
【Plus】M&A売主が売却準備の中でバリュエーション最大化のために減資を活用
▽節税の効果:増資をすることで、資本金1億円を超えてしまいそうな場合、減資により税法上の中小企業のステータスを維持できる場合がある。実効税率が低くなり、納税額が減ることで、手元資金を増加させられるし、余剰資金を成長投資に回すことで成長スピードを加速させたり、(NOPLATに対し実効税率分の税金費用を控除する)フリー・キャッシュフローを大きく見せることが可能となる。M&Aバリューションにおいて、売主に有利な金額を算定しやすくなるため、使える制度は極限まで使うべきである。
▽補助金・助成金の効果:節税と同様に、資本金を各種制度の中小企業基準内に抑えることで、補助金や助成金を活用できるステータスを維持できる。これにより、手元キャッシュを増やし、キャッシュフローも増大できる。