◆種類株式とは、会社法に基づき、普通株式とは異なる特定の権利内容を持たせた株式のことを指す(会社法第108条)。発行する会社が、種類ごとの内容を定款に定めることで、多様なニーズに対応する資金調達やガバナンス設計を可能にする。
◆主な種類株式には以下のようなものがある。
▽配当優先株式:他の株式に優先して配当を受ける権利を持つ株式。投資家に対する利益配分を明確にしやすい。
▽残余財産分配優先株式:会社清算時に、他の株式に優先して残余財産を分配される権利を持つ株式。あらゆるシナリオを想定する投資家向け。
▽議決権制限株式:議決権を限定的に持つ、または持たない株式。経営の自由を確保しながらエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)したい場合に有効。
▽譲渡制限株式:他者への譲渡に一定期間の勤務等の条件達成が必要な株式(Restricted Stock, RS)。公開会社が役員・従業員に企業価値向上インセンティブを付与したい場合等に利用される。
▽取得請求権付き株式:株主が特定の条件下で会社に株式を買い取らせることができる株式。投資家の回収リスクを軽減するための手段。
▽取得条項付き株式:会社が特定の条件下で買い戻せる権利が付与された株式。
▽全部取得条項付き株式:株主総会決議にて会社がその全部を買い取ることができる株式。株式併合等の手続きが浸透する前は、少数株主の整理(スクーズアウト)に活用されていた。
▽拒否権付き株式:特定事項について否決権を持つ株式。特定領域の経営判断に対するコントロールを維持したい株主がいる場合に有効。
▽取締役選任権付き株式:会社の取締役を選任する権利が付与された株式。
【Plus】メザニンファイナンス
配当優先株式であれば、法的に資本であるため、BSの純資産の部に計上でき、財務体質が健全であるとアピールしやすい。また、普通株式より借入金に近いメザニンの性質を持たせるため、柔軟な資金調達が可能となる。ただし、通常よりも高い金利(配当÷資本)をスポンサーに提供せねばならない上、通常、毎期の配当が義務づけられ、分配可能な剰余金を常に確保しておかねば、重大な財務リスクを負うことにもなる。違法配当は取締役にとって重い罰則(連帯しての弁済に加え、5年以下の懲役、500万円以下の罰金)が科されるため、長期的な視点からの注意が必要である。
【Plus】セラーズファイナンス
M&A取引実行後、売主が取得した株式売却代金の一部を対象企業に資金提供することをセラーズファイナンスと呼ぶ。セラーズファイナンスの方法としては、対象企業に融資することもあれば、メザニンファイナンスをすることも考えられる。例えば、議決権を制限しつつ、その代わりに高い配当率の配当優先株にするなどである。例えば、高額の退職慰労金を支払うと、対象企業の資金に余裕がなくなる場合に、退職慰労金を諦めるのではなく、全額を受領し、売却代金と退職慰労金の合計額の一部を、高金利のメザニンとして資金提供し、トータルの売却金額を増加させることも状況次第では可能である。ただし、回収リスクを負うため、売却後の買主による経営能力については慎重に評価する必要がある。