◆コースの定理とは、経済学者ロナルド・コースによって提唱された理論であり、外部不経済(外部性)の問題が発生しても、以下のような「取引コスト」がゼロであれば、関係当事者が交渉を通じて効率的な解決を図ることができるというものである。この定理では、いずれの当事者に権利が与えられるか否かに関係なく、資源の最適な配分が実現されると主張している。
情報収集コスト:取引を行うために必要な情報を収集するためのコスト。例えば、相手の信用調査や市場の状況分析などが該当する。
交渉コスト:取引条件を決定するためにかかる交渉や合意形成に関わるコスト。双方の条件に関して調整するための時間やリソースが含まれる。
契約作成および履行コスト:契約書の作成やその履行に必要な法的手続き、また契約の遵守を確認するためのコスト。
監視コスト:契約の履行状況を監視するためのコスト。取引相手が契約通りに行動しているか確認するための監視活動が含まれる。
訴訟コスト:契約違反などが発生した場合に、それを解決するための法的手続きや裁判にかかるコスト。
◆コースの定理は、外部性や市場の失敗を説明する経済学理論に含まれるが、その中でも、政府による規制や課税ではなく、当事者間の交渉を通じて問題を解決できる点を強調している。重要な前提は、取引コストがゼロであること、または非常に低いことと、権利が明確に定義されていることである。
【Plus】経営者としてのリスクとチャンスには次のようなものが挙げられる。
短期的リスク: 取引コストが高い場合や、権利が不明確である場合、交渉が難航し、外部性による問題が企業に負担をもたらす可能性がある。また、政府が介入して規制や課税を行う可能性もある。
短期的チャンス: 外部性に関連する問題が発生した場合、交渉を通じて、低コストで効率的な解決を図ることができれば、企業の利益や社会的信頼を維持できる。また、相手方と良好な関係を築くことで、長期的な協力関係が生まれる可能性がある。
長期的リスク: 取引コストや交渉が成功しない場合、問題が長期化し、法的対立や評判リスクが発生する可能性がある。政府の介入による規制強化や罰則もリスクとなる。
長期的チャンス: 取引コストを削減する技術やプロセスを導入し、交渉を円滑に進めることで、外部性の問題を迅速に解決できる。長期的には、効率的な資源配分に寄与し、企業の競争力を強化する可能性がある。
【Plus】オーナーとしての株式価値の観点では、コースの定理がうまく機能し、交渉を通じて外部性の問題が解決された場合、株式価値の上昇が期待できる。一方、取引コストの高騰や政府の介入によって外部不経済が解消されない場合、株式価値の減少リスクがある。