◆会社分割とは、法人がその事業の全部または一部を他の法人に包括承継させるM&Aスキームの一種である。特定承継の事業譲渡とは異なり、包括的に資産、負債、契約関係を移転することが可能であり、譲渡対価は現金ではなく分割事業が承継される法人の株式となる。
◆会社法767条以下が会社分割の根拠法である。具体的な手続き等の詳細が定められている。会社分割の手続において、売主にとって特に重要なのは債権者保護手続と労働契約承継手続の2つである。売却価格や取引実行可否に影響を及ぼしうるため、キーパーソンを見極めた上での事前の地ならしが重要となる。また、法人格に紐づく許認可等は、分割事業に承継させることはできないため、再取得が必要となる。
◆財務会計上の会計処理は、企業結合会計基準に従うことになる。つまりパーチェス法(購入法)が基本となり、逆取得の会計処理となる場合もある。

◆会社分割には4つのタイプが存在する。わかりやすく整理すると、売主サイドで分割事業の一次所有者(=売主、対価の行き先)を誰にするか、買主サイドで分割事業の二次所有者(=買主、事業の行き先)を誰にするか、の違いである。

▽売主サイドの分割事業の一次所有者(分社型会社分割、分割型会社分割)
・分社型会社分割:「会社分割を実施する法人(分割法人)」が分割事業を一次的に所有する。分割事業の対価を「分割法人」が受領する。
・分割型会社分割:「分割法人の株主」が分割事業を一次的に所有する。分割事業の対価を「分割法人の株主」が受領する。
▽買主サイドの分割事業の二次所有者(吸収型会社分割、新設型会社分割)
・吸収分割:「既存法人」に分割事業を包括承継させる。分割事業を取引対象を捉えれば、売主は分割会社(の株主)であるが、その対価は承継先の「既存法人(買主)」の株式である。結果として、大小関係によっては、売主が「既存法人(買主)」の経営権を支配することもある(吸収分割の場合)。
・新設分割:「新設法人」に分割事業を包括承継させる。売主が受皿法人を新設し、事業を承継後に「新設会社」の株式を株式譲渡する方法も一般的(この場合は即座にキャッシュ化できる)。
◆会社分割では、分割事業に関連する負債も承継対象に含まれるのが通常である。該当する負債の債権者としては、会社分割前と異なるリスクに変容する。また、分割型会社分割の場合には資産の全部又は一部が社外に流出し、その対価が分割会社の株主に交付されるため、債権者からすれば債権回収可能性が大きく棄損する。このような場合、会社法の定めに従って債権者保護手続を実施する必要がある。万が一、債権者が異議を申し出ると、売主の資金的な負担が増す場合もある。重要な債権者には事前に丁寧に説明して承諾を得る必要がある。
▽債権者保護手続:
・公告・通知:官報等での公告や個別催告を通じ、債権者に異議申し立ての機会を提供する。原則として全ての「知りうる債権者」への通知が必要である。
・異議申し立て:一定期間(1か月以上、到達主義)内に異議がない場合には手続きを予定通り進めることが可能になる。一方、異議があった場合には、弁済、担保提供、財産信託といった措置が必要となる。
◆会社分割では、分割事業に関連する従業員との労働契約も包括承継の対象となるのが通常である。承継対象の従業員としては、入社した企業とは別の法人で就業することを半ば強制されるし、分割事業に従事しているのに承継対象から外れた従業員は、従事する事業がなくなる分割会社に残留しなくてはいけなくなる。そこで、労働契約承継法の定めに従って、従業員に選択の機会を提供する必要がある。従業員の離職が懸念される場合、バリュエーションに大きく影響しうるため、慎重にM&Aスキームを選択するとともに、従業員への説明内容を十分に吟味する必要がある。
▽労働契約承継手続:
・説明義務:対象従業員に対する説明の義務。
・異議申し立て:異議のある従業員との契約を、承継対象に含める、または承継対象から除外するという措置を講じる。
◆会社分割は、会社法では包括承継可能な組織再編行為である。しかし、税法上では、あくまで資産の移転であって、資産の譲渡益は法人所得を形成する。これが税法上の原則である。しかし、会社分割の前後で経済的実態が変わっていない場合にまで課税してしまうと、組織再編行為による経済の新陳代謝を阻害するから、一定の条件(税制適格要件)を充足する場合(税制適格組織再編)に限って、課税を繰り延べることができるとしている。
▽税制適格要件(課税繰り延べの条件):
・グループ内での組織再編(100%グループ会社は支配継続、50%超グループ会社は支配・事業継続)
・共同事業目的の組織再編(事業関連性、支配・事業継続)
・独立目的の分割・株式分配(スピンオフ)(独立継続、事業継続)
【Plus】売主が優良なM&Aアドバイザーを起用する重要性
▽売却準備のサポート:広範囲の売却準備を支援してくれる。
▽M&Aスキームの最適設計:法務・税務リスクを回避しつつ、最適なM&Aスキームを考案・提案・調整してくれる。
▽バリュエーションの最大化:分割事業の価値を合理的な手法で評価し、できるだけ売主有利に交渉を有利に進めてくれる。
▽債権者・労働者対応:債権者保護手続きや労働契約承継手続きの円滑な遂行を支援してくれる。わかりやすくキーパーソンに説明し、円滑な承継を実現できるようサポートしてくれる。
▽高品質な情報開示:高品質な初期的情報開示や広範囲のDD開示資料の品質を高め、買主の信頼を獲得してくれる。
▽最終契約の交渉サポート:複雑になりやすい最終契約のドラフトを作成し、買主サイドの弁護士等と交渉してくれる。
▽クロージングの支援:株式譲渡等と異なり、クロージング手続きは複雑になりやすく、買主がスムーズにクロージング手続きを完了できるよう、売主サイドも協力する義務を負うのが通常である。そのサポートをしてくれる。