◆連結会計とは、親会社と子会社(および関連会社)を一つの経済単位として捉え、グループ全体の財務状況や経営成績を総合的に示す会計処理である。個別財務諸表だけではなく、連結財務諸表を作成することで「企業グループ全体の財政状態と経営成績」を正確に反映することを目的とする。
◆上場会社や会社法上の大会社は、連結財務諸表を開示する義務を負っており、上場株式は、連結財務諸表上の財務指標を使って評価される。
◆ 連結会計の処理内容の概要
1.親会社と子会社の財務諸表の合算:各社の資産、負債、収益、費用を連結開始時の時価で評価した上で合算する。
2.内部取引の消去:親子間、子会社間の取引(売上仕入、債権債務、配当など)を消去)する。
3.のれんの計上と償却・減損:M&Aで買収した際の取得価格と子会社の資産負債を時価評価した後の純資産の差額を「のれん」として計上する。「のれん」は一定期間(最長20年)で償却または減損処理を行う。
4.非支配株主持分の表示:子会社のうち、親会社が保有していない株式部分を「非支配株主持分」として表示する。通常、子会社(M&A取引の対象企業)の売主が、M&A後も経営者を継続する際のインセンティブとして継続保有することが多い。

【Plus】M&A売主が知っておくべき「買主がM&A時の連結会計で気になる事」
買主がM&Aに係る連結会計で気にするイシューは、ズバリ「のれん」に集約される。「のれん」が費用を増やす中、シナジー効果発現で成功すれば「有能な経営者と称賛される」が、シナジー効果発現に失敗すると「買収価格が高すぎた」というエクスキューズをしなければならない。広告主を守りたい新聞もこのエクスキューズを正当化させる記事を書く。とはいえ、これが現実である以上、売主としては、買主が「のれん(=純資産より高い買収価格)」警戒する背景を理解し、「シナジー効果の成功可能性が高いことを説明することが、高額売却に成功するための秘訣である」ことを強く意識する必要がある。つまり「高品質なインフォメーション・メモランダム」と「そのバックデータ(DD開示資料やインタビュー等)」が重要であり、それを作成してくれる優良なM&Aアドバイザーの選定が重要であることを理解してから、M&A会社売却に臨むべきである。そもそも倒産が見込まれない対象企業のバリュエーションにおいて、純資産は売却価格とは無関係である。売主は正々堂々と高品質な情報を開示しながら高額売却に臨むべきである。
▽のれんの扱い:買主はM&Aによる「のれん」を連結貸借対照表で計上し、「のれん償却費(販管費)」又は「のれん減損損失(特別損失)」を連結損益計算書に計上する。「のれん償却費」は営業利益を圧迫し、「のれん減損損失」は「純利益」を圧迫する。純利益が圧迫されると「PERは大きくなる」つまり「割高と見られ売られやすくなる」すると「PERが落ち着く所まで株価が下がる」そして「経営者が株主から非難される」。しかし、そもそも「のれん」とは「対象企業の競争力の源泉(会計に反映されない無形の価値)」であり、それを上手く活用(のれん負担を吹き飛ばすシナジー効果を発揮)できれば株価は上がるし、できなければ(のれん償却費・減損損失の負担)だと株価は下がりやすくなる。大枚を叩いて建設した工場が上手く稼働すれば利益が増えるが、失敗すれば利益が減るのと全く同じである。しかし、のれんばかりが非難されるのはなぜだろうか?のれんは無形の価値なので伝えにくいし、シナジー効果も(買収時点では)想像上の価値なので確信を持ちづらい。だから、安売りで妥協するのではなく、高額売却を狙う売主は、買主の経営戦略を理解し本当に重要な情報を見極め、しっかり伝えるべきである。
▽非支配株主持分:売主が多段階株式譲渡を行う場合、買主は非支配株主持分(売主が継続保有するM&A対象企業の持分(まだ売主が売り切ってない持分))に係る連結処理を意識する場合がある。例えば、対象企業の業績が連結グループ全体に占める割合、売主の継続保有持分が大きい場合、買主企業の株主から見て「買主企業は、売上が大きくても株主に帰属する利益が小さい会社」となる。逆に売主からすれば「買主グループの利益の多くが自分に帰属する」ことを意味する。対象企業を親会社とのシナジー効果も使って成長させた後で、残りの対象企業持分を正当な評価額で売却できるよう、M&A最終契約で定めておくことが重要である。これも優良なM&Aアドバイザー、特に優良なセルサイドLAの存在が重要となる。「親会社の経営資源を使って成長したのだから、売主が成長の果実を全て奪っていくのはおかしい」という買主の主張にも一理あるのである。
▽内部取引の複雑性:買収後に買主企業と対象企業の間で様々なシナジー効果が試される場合、内部取引が様々な形で発生し、連結会計が複雑になる場合がある。事務負荷は相応にかかるが、これこそがM&Aの存在意義であり、連結会計の存在意義とも言える。何が当たるのかわからないし、試しているうちに気づいていなかった方法が見つかることもあるであろうから、事務負荷は気にせずにトライすべきである。売主は、対象企業のバックオフィスを軽視しない方がよい。バックオフィスの脆弱さは、価格ディスカウントの理由の筆頭格である。