◆クロスボーダーM&Aとは、国境を越えて行われるM&A取引を指す。異なる国の企業間での取引であり、文化・法制度・言語・商慣習等の違いが交渉や統合に影響を与える。クロスボーダーM&Aは、日本企業にとって市場拡大、競争優位の強化や新規性の高い知的財産取得などの戦略的な手段となる。
◆ クロスボーダーM&Aの種類は以下のとおり。

▽アウトバウンドM&A:日本企業が海外企業を買収するM&A取引(対象企業=海外企業)を指す。日本の大企業が、成長市場にある海外企業を買収することを通じ、現地市場に参入して成長を取り込むケースが多い。
▽インバウンドM&A:海外企業が日本企業を買収するM&A取引(対象企業=日本企業)を指す。例えば、欧米やアジアの投資ファンドが、日本の中堅中小企業を対象企業として投資するケースは増加傾向にある。
◆インバウンドM&A(日本企業を海外企業に売るM&A)の売主にとってのメリット・デメリットは以下のとおり。
▽メリット:
・シナジー規模:海外企業の商品が日本市場にアクセス(ダウンストリーム・シナジー)や、日本企業の商品が海外市場にアクセスする(アップストリーム・シナジー)により、大きな成長が見込める場合、国内の買主(ドメスティック・バイヤー)より大きなシナジー効果を発現できる可能性が増える。日本企業の商品・サービスがいわゆる外国人旅行者需要にフィットしている場合、これもアップストリーム・シナジーとして有効に機能する可能性がある。
・売却額:シナジー規模、為替レートの水準や見通しによって、国内の買主より相当に高いバリュエーション評価額が提示されるチャンスがある。日本を除く先進国では受け入れられやすい競争入札による交渉によって、売却額がさらに上がる場合もある。
▽デメリット:
・言語の壁(交渉時):買主が日本語を話せず、売主も買主国の言語を話せない場合、通訳が入ったとしても売却交渉が円滑に進まないリスクがある。誤解や曖昧さが生じる可能性が高く、取引の交渉・実行で不測のトラブルが生じるリスクがある。
・言語の壁(PMI):売却後、買主と対象企業の役員・従業員間で言語の違いがPMIを困難にするリスクがある。特に、日本語は言語の壁が高く、統合プロセスが遅れる可能性がある。
【Plus】クロスボーダーM&Aを成功させるためのポイント
▽文化的な相違を理解する:言語や文化の違いによるトラブルを防ぐため、専門の通訳や文化コンサルタントを起用し、円滑なコミュニケーションを図る。
▽法務・税務の専門家を活用する:クロスボーダーM&Aは、国ごとの法制度や税務規制の違いが大きな課題となる。クロスボーダーM&Aに精通した法律・税務の専門家を起用することで、リスクを軽減することができる。
▽適切なM&Aアドバイザーを選定する:グローバルなネットワークとクロスボーダーM&Aの経験を持つ優良なM&Aアドバイザーを活用することで、国内に限定しない広いユニバースからの買主候補の選定を通じ、より売主に有利な組み合わせを見つけやすくなる。
▽綿密な売却準備を実行する:異文化コミュニケーションを効率化するツールが「合理性」である。どんなことでも合理的に説明できるよう、情報管理体制を整備し、迅速・正確に情報開示できるように売却準備のレベルを一段上のレベルにしておくことが成功の秘訣となる。
▽現地のディスクローズ規制を調査する:買主国でのディスクローズ規制を調査し、日本の中堅中小企業のそれとの違いを把握しておく。M&A取引が成約したら速やかに買主国のディスクローズ規制に則したディスクローズができるよう、情報管理体制や財務会計報告体制を強化する準備をしておく。
▽PMI計画を重視する:PMIプロセスを成約の可能性が高まった段階から早めに具体的に計画しておくことで、買主のエグゼクティブや対象企業の従業員の不安を軽減し、条件交渉やPMIでの成功に直結する。