◆デュー・ディリジェンスとは、M&A対象企業の事業・財務・税務・法務・人事・IT・ESG等の領域について、M&A取引またはBB取引の主要条件等を詳細に検討し、具体的な合意に至るよう交渉するための材料を収集するために実施する詳細な調査のことを指す。デュー(適切な)ディリジェンス(注意)によって、買主が「注意」を払い「適切」な調査をしてからM&A取引またはBB取引を実行すべし、という意味である。成長・改善可能性、シナジー可能性やリスク及び欠陥の存在やその対処方法等を確認・検討するとともに、バリュエーション、M&Aスキームや最終契約の詳細事項を固めるための基礎情報を取得・評価するプロセスである。通常、DDプロバイダーによってDDサービスが提供される。
・事業デュー・ディリジェンス
・財務デュー・ディリジェンス
・税務デュー・ディリジェンス
・法務デュー・ディリジェンス
・人事デュー・ディリジェンス
・ITデュー・ディリジェンス
・ESGデュー・ディリジェンス
◆マスコミ等による誤訳に「資産査定」や「買収監査」が挙げられる。資産に限定されず、監査(=保証業務)でもないため、いずれも間違い。敢えて意訳するなら「企業精査」とするのが妥当である。
・バイサイドデュー・ディリジェンス
・セルサイドデュー・ディリジェンス
◆セルサイドDD(ベンダーDD)も存在する。売主がM&Aアドバイザー(FAとLA)とともにDDプロバイダーを起用し、セルサイドDDを実施し、そのレポートを開示資料に添付するのである。未上場会社は監査義務もなく、開示情報の信頼性が上場会社と比べて低いため、信頼性を高める必要性が高い。また、セルサイドDDの過程で対象企業のポテンシャル、課題や欠陥が発見されることもあり、その対策を講じたり、事業計画に反映させることで、より魅力的なM&A案件に生まれ変わることもある。バイサイドDDは買主それぞれが別々のDDプロバイダーを起用するので、買主ごとに理解内容にバラつきが生まれ、評価の前提が不統一となる。対象企業にグループ企業や海外拠点が多数あり、バイサイドDDをイチからさせていたら時間がかかって仕方がないこともある。このような問題を緩和するのに役立つのである。
◆DDは、保証業務である財務諸表監査や内部統制監査と違い、合意された手続である。したがって、合意できるなら、誰にどんな目的でどれくらいの期間をかけどれぐらいの精度で調査分析してもらうのかは、買主の任意である。M&Aの目的や、合意を目指す条件に伴うリスクに応じ、DD目的を設定すればよい。買主の担当者が、DDレポートを添付して稟議を通す際「この人にこんな風に見てもらいました」「そうか、なら安心だな」となればOKなのである。
【Plus】基本的にDDを実施する義務は、買主が負っている。重要な投資をする際、買主(株式会社の取締役)としての善管注意義務を負っているのである。株主から経営を受託している取締役としての受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)を負っているとも言える。DDをせず、結果「事前に知りうる損害の原因」が見つかったら、取締役は責任を取らねばならい。しかし、M&AやBBにおいて、DDが法的に明確な義務になっていて、DDプロバイダーも公的資格が必須かと言えばそうではない。つまり「重要性が低い」「DD以外の方法で確認できる」等と貫き通せるなら別にやらなくてもいいし、誰でもDDプロバイダーに就任できる。しかし、やはり、社内での説得力や万が一の失敗リスクを考えると、DDを実施することで一種の責任転嫁余地を作り、M&A士業に担当してもらうのが通例なのである。
【Plus】一方、特にBB案件の買主は、DDコスト負担から逃れるためM&A保険で損害リスクをカバーすることもある。本来のDD目的には「潜在価値の発見」というポジティブな目的も存在しており、保険では代替できない。DDプロセスをスキップしてしまうと、買主は対象企業の成長機会、改善機会や欠陥治癒機会を確認するチャンスを喪失してしまう。シナジー効果などまさに「絵に描いた餅」になってしまう。マイナス面の方が大きいため、多くの誠実な買主はDDを実施している。M&A案件の場合、DD実施率はほぼ100%であろう。M&A保険の対象となる保険事故の範囲や保険金上限や保険料を総合的に勘案し、果たしてDDより優れているのかと言えば、疑問が残る。売主も「M&A保険でカバーできるからDD対応しないでいいですよ」とBB業者に唆されたら「ダメな買主に安く売ろうとしてる」とピーンとくるべきである。売主と数回会って話しただけで全てを理解できる超能力者クラスの買主には会ったことがないからである。