◆デット・エクイティ・スワップ(DES)とは、企業が債務(デット)を株式(エクイティ)に転換する財務再構築手法である。これにより、企業は負債を削減し、自己資本比率を改善することができる。債権者は、債権を放棄する代わりに企業の株式を取得し、企業の将来的な成長に伴う利益を享受することができる。
◆DESの利用シーンとしては、以下が挙げられる。
▽事業再生のための財務リストラクチャリング:有利子負債の圧縮や債務超過解消のため、特に経営再建や資本構成の改善を目的とする場面で利用される。
▽M&A前後での財務リストラクチャリング:売主が売却前に対象企業の財務体質を強化する目的や、買主が買収後に対象企業の財務リスクを軽減する目的に利用される。
▽許認可などの自己資本規制:許認可事業の最小自己資本ルール等を資金負担なく実現する目的で利用される。金融商品取引業者、貸金業、特定建設業、旅行業、人材派遣業、宅地建物取引業、少額短期保険業者、貨物自動車運送事業、産業廃棄物収集運搬業・処分業等で最低自己資本ルールが存在する。
◆ 具体的な契約と手続きは以下のとおりです。
▽債権者と債務者間の合意:DESを実施するためには、債権者(金融機関や親密先等)と債務者(企業)の間でDESに関する合意を形成する。
▽株式の発行決議:株主総会で、有利子負債を株式に転換するための新株発行について決議する。
▽債務の株式転換:債権者が保有する有利子負債を消滅させるとともに、企業の株主名簿に株主として記載する。
▽税務・法務手続き:税務上の適切性や法的要件を確認し、必要な届出を行う。
【Plus】M&A売主にとってDESを活用する意味
▽財務健全性のアピール:主に財務リスクが軽減することを通じた資本コストの低下を通じ、企業価値を向上させる。また、有利子負債の減少を通じ、株式価値を増大させる。
▽買収後の資金調達の選択肢:財務体質を改善することで、金融機関からの評価が上がり、買主が検討する新成長戦略やシナジー戦略に必要な資金を調達しやすくなる。結果、買主との条件交渉をより有利に進められる。
▽役員借入金の自己資本への振替:資金負担なく自己資本規制をクリアし、事業に必要な許認可の新規取得・更新などを実現する。
【Plus】種類株式を利用したDES
▽経営権の保護:経営参加に関心のない債権者に無議決権株式を発行することで、既存株主の経営権を守りつつ、有利子負債を削減できる。債権者は、回収リスクのある貸付金よりも価値の高い種類株式を取得できる。
▽将来の再調整:転換条項付き種類株の発行で、財務状況に応じた柔軟な再構築が可能。一定の条件を充足した場合に普通株式に転換するなどの設計も可能である。
【Plus】DESの税務上の論点
▽債務免除益の課税:DESによる債務削減額は、その一部(時価と額面の差額)が債務免除益として法人税の課税対象となる。ただし、一定の条件(企業再生税制適用時に期限切れ欠損金を優先的に充当)を満たせば非課税となる場合もある。
【Plus】DESによる自己資本増加によるデメリット
DESにより、自己資本が増えるが、自己資本が一定金額以内でないと利用できない優遇制度があるため、注意が必要である。例えば、中小企業税制の他、中小企業向けの共済制度、補助金・助成金等がある。これらが利用できなくなるデメリットを踏まえ、最適なDEDスキームを設計すべきである。