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M&A用語+

M&A用語は専門的なものが多く、誤用もされやすく、要注意です。
売却価格等の条件は、「取引関係者による評価」で決まります。
売主が成行任せは禁物で「買主サイドの評価を想定した準備」が勝敗を分けるのです。
取引関係者は、買主本人(買主の社内でも賛成派、反対派がいることも)だけではありません。
専門家(会計士、税理士、弁護士、コンサルタントが精査結果や価値評価を買主に報告)や、
銀行(買収資金の融資可否判断や融資条件を検討)等がどう評価するか、などなど。
買主サイドでもそれぞれの利益やリスクがあって、それぞれの主張があるのです。
正確な用語理解が、クライアント様の利益最大化への第一歩となります。
日本初の売主支援専業のM&A助言会社として、『売主様のためのM&A用語集』をご用意しました。
用語の意味に加え、知っておくべき豆知識をご紹介してますのでぜひ参考にしてください。

割引率 (Discount Rate)

◆ 割引率とは、将来のキャッシュフローを現在価値に換算する際に使用される利率である。投資家が求める「投資のリスクに応じた必要リターン(資本コスト)」を反映し、リスクが高い投資対象ほど割引率は高くなる。M&A等での株式価値評価以外、つまり債券や不動産の価値評価においても、割引率は投資リスクを反映する指標として定着している。

◆ファイナンスの世界における「リスク」とは「危険(マイナス)」を意味せず、「変動(プラス・マイナス含む変動)」を意味する。例えば、リスクを反映する割引率がゼロ(0.0%)の状態とは「未来永劫のキャッシュフローの安定(変動ゼロ)」を意味し、その対極であるハイリスクの状態とは「短期間でのキャッシュフローの急変動(アップサイドとダウンサイドの両方)の予想」を意味する。つまり、一切規模も収益性も変化しそうにない会社の株式がゼロリスク急成長しそうな会社の株式はハイリスクである。もちろんすぐに倒産しそうな会社の株式もハイリスクである。

◆リスクの評価には、どうしても評価者による主観(恣意性)が入る。業種の将来性、業界内での地位、経営者の能力、足元の業績や財務健全性は、株式投資リスクを評価する上での基本要素であるが、企業規模も相当な影響を与える点は留意が必要である。「同じキャッシュフローでも売上が大きい企業の方がリスクは小さい(割引率が小さい=企業価値は大きい)と評価される可能性が高いのである。規模が大きいと業績は短期的に安定し、規模が小さいと短期間で業績が大きく変動する可能性が高いことを意味する。直感的に違和感がないだろう。主観(恣意性)は評価される側からすると非常に怖いものであり、評価者(M&Aの場合、最終的な評価者は買主となる)の「ちょっとした誤解」「重要情報のインプット漏れ」等が、例えば「5%のリスク増」「10%のリスク増」として影響してしまうと、株式価値のかなりの部分が崩壊してしまう。だから上場会社ですらディスクロージャーやIRに必死になるのである。

◆投資対象のリスクの大きさに応じて、下表のようなイメージで割引率が変わる(この前提は、リスク・フリー・レート(長期国債の利回り)がゼロ近辺、エクイティ・リスク・プレミアムが6~7%程度としているため、金融・物価が正常化すると、多少上振れする可能性がある)

投資対象だいたいの割引率の水準(執筆者の主観)
国債利回り(デフォルト・リスクが僅少な国)0~1%(政策金利や国債発行量等に応じ変動)
投資適格の社債数%(企業の信用力に応じて変動)
投資用不動産数%(物件の収益変動リスクに応じて変動)
上場株式(G.C.前提疑義なし)※TOB案件6~15%
未上場株式(大企業)※M&A案件6~10%
未上場株式(中堅中小企業)※M&A案件10~25%
未上場株式(零細企業・個人事業)※BB案件20~50%
未上場株式(スタートアップ・再生案件)20~100%

◆割引率とは、将来のキャッシュフローを現在価値に変換する際に、将来キャッシュフローの上にのせる重石のようなものであり、大きな割引率(大きな重石)は将来キャッシュフローを現在価値に換算する際に大きく圧し潰す。小さな割引率はさほど圧し潰さない。

・割引率が上がれば上がるほど、将来のキャッシュフローの現在価値はどんどん小さくなる。
・割引率が下がれば下がるほど、将来のキャッシュフローの現在価値はどんどん大きくなる。

問題は、どれくらい割引率が変わると、どれくらい現在価値が変わるのか、である。

▽年1,000のキャッシュフローの現在価値:「割引率が変化した場合、現在価値がどれだけ変わるか」「現在からの時間的距離が長くなると、現価値がどれだけ変わるか」をシミュレーションすると以下の表のようになる。将来キャッシュフロー1,000の現在価値を示している。事業計画でよく推測する最後の年5年後の列であれば、割引率6%の現在価値は747とまずまず価値が残っているが、割引率が50%だと132、100%なら31とほとんど価値が圧し潰されて消滅している。また、未上場株式(中堅中小企業)の割引率の理想水準10%の行であれば、1年後は909と1,000から少し小さくなっているだけであるが、20年後は149と非常に小さくなっている。毎年1,000が20年続く投資を割引率10%で現在価値に換算して全て合計すると8,514となる。「1~20年後の合計」は株式価値と概ね同じ(厳密にはターミナルバリューの影響も大きいが、ここでは簡便に無視している)と捉えてよい。

割引率1年後5年後20年後1~20年後の合計
6%94374731211,470
10%9096211498,514
15%870497616,259
25%800328123,954
50%6671320.31,999
100%500310.0011,000

▽割引率10%を100とした比較:未上場株式(中堅中小企業)の割引率の理想水準10%の現在価値を100とし、各割引率での現在価値を同じ年の中で比較できるように指標化したのが以下表である。割引率が5%増えるだけで1~20年後の合計(≒株式価値)は26%も減る。割引率が10%増えるだけでは54%も減る。スタートアップのリスクと同等と見做されれば最悪88%も減るのである。主観(恣意性)の恐ろしさを実感できるのではないだろうか。

割引率1年後5年後20年後1~20年後の合計
6%104120210135
10%100100100100
15%96804174
25%8853846
50%73210.223
100%5550.00112

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