◆ドメイン理論とは、経営者が新たに参入すべき事業領域を選定する際に活用できる経営理論のことを指す。
◆企業の長期的な競争優位を築くための経営理論には、以下のような理論がある。企業規模や市場の成熟度、競争優位につながる独自リソースの有無などによって、フィットする経営理論が変わってくる。
▽アンゾフの成長マトリクス:成長マトリクスでは、市場と製品を既存と新規に区別した4象限に事業領域を分類し、それぞれの領域での成長戦略を検討する。
▽ポーターの5フォーシズ分析:5フォーシズ分析では、業界の競争構造を動的に理解し、魅力的な市場を特定する。5つの競争要因(業界内競争、新規参入者、代替品、買い手の交渉力、売り手の交渉力)を分析する。
▽PPM(BCGマトリクス):BCGマトリクスでは、事業の成長性と市場競争力を評価し、適切なリソース配分を検討する。事業(商品)を、4象限(花形、金のなる木、問題児、負け犬) で分類し、最適資源配分を目指す。
▽RBV:RBVでは、競争優位が経営資源の独自性と活用能力に依存するという考え方を採用している。内部資源の強みを生かしたドメイン選定を重視する。
▽VRIOフレームワーク:VRIOフレームワークでは、企業の内部資源が競争優位を生むか判断する。4つの基準(価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization))を満たすか評価する。
【Plus】新たなドメイン(事業領域)を選定する際、以下の観点から注力すべき事を決めることで、より効率的に企業価値を高めることができる。
▽市場規模と老舗シェア:巨大な既存市場を少数の老舗企業が寡占している場合、新たな技術を活用することで市場シェアを奪うことができる場合が多い。
▽市場の成長性と収益性:競争が少ない高成長市場を狙うことで効率よくキャッシュフローを拡大させることができる。
▽シナジーの発揮:既存事業の独自の強み(ブランド・顧客基盤・技術資産等)との相乗効果を活用できれば、高単価・低コストによる高収益性を実現できる。
▽参入障壁による模倣防止:独自技術・ネットワーク効果・ブランド力などの自社経営資源を参入障壁として利用できる市場に参入すると、長期間の高収益性を享受できる。
▽リスク分散:既存事業と異なるリスク特性を持つ新規事業を事業ポートフォリオに加えることで事業リスクを分散でき、全体としてリスクを抑制しながら、高いリターンを獲得できる。
【Plus】M&A売主はドメイン選定理論を頭に入れて売却準備や売却交渉をすべき
◆M&A買主のニーズ理解:M&A買主が大金を支払うには見合った目的がある。買主もドメイン選定理論を検討しながら、企業グループ全体の企業価値向上を狙っているケースが多い。そのため、M&A売主は、対象企業がM&A買主企業グループに加わることでどのようなメリットが生ずるのか、深く検討しておくと、開示すべき情報や提案時のアングルを固めることができる。
◆新事業と売却準備:対象企業がM&A買主から見て魅力的であり、重大な問題もない、という評価を受けるためには、入念な売却準備が必要なケースが多い。キャッシュフローの規模・収益性・安定性・成長性を向上することが株式価値の増大に直結するが、そのためにM&A会社売却の数年前には、新事業を軌道に乗せ、将来への期待を拡大しつつ、リスクを適正化ておくことが望ましい。特に未上場オーナー系企業でアグレッシブにチャレンジし続けてきた優良成長企業を対象企業とするM&A取引の場合、上場企業や投資ファンドから見ると、残念ながら「欠陥」と映る要素を含むケースが大半である。過去に失敗した新事業(非継続事業)に関するデータを放置・混在させていると過小評価につながるし、現在進行形やテスト段階の新事業に関するデータも既存事業と峻別しておかないと、適切な評価が困難となり、結果として過小評価につながりやすい。事業価値の基礎となる調整EBITDAを適切に算出・開示することができなくなるためである。