◆複式簿記とは、すべての取引を「借方」と「貸方」の両側面から記録する会計手法である。これにより、財務情報の整合性が保たれ、誤謬や不正が検出しやすくなる。
【Plus】複式簿記の弱点も理解しておくとよい。
複式簿記としては完璧でも、M&A目的の開示データとしては落第点である場合は少なくない。
▽価値の源泉:企業がどのように価値を生み出しているかという「価値の源泉」は複式簿記の結果を見ても分からない。そのため、事業計画として課題や施策を言語化した上で、管理会計の中でKPIを把握したり、財務情報をブレイクダウンして現場オペレーションの品質や効率性を確認したりする必要がある。
▽キャッシュの動き:信用経済の発展により、現金を即払いしなくても商品の売買が可能になっているが、複式簿記が忠実に捕捉してくれるので、経営成績や財務状況を容易に確認できている。しかし、逆に言えば、キャッシュの動きがわかりにくくなっているため、管理会計で資金繰り表を用意したり、財務会計でキャッシュフロー計算書を用意する必要がある。また、M&Aバリュエーションでも、会計の数字をそのまま使用することはなく、必ずキャッシュフローを使用する。そのキャッシュフローも必要に応じ適切に調整しなければ、過小評価などの望ましくない状況を作り出す。
▽事業との関連性:上場企業は、外部ステークホルダーの利益最大化に貢献しない支出をすると、株主や金融機関などから批判を受ける。恣意性の高い税務会計は認められず、厳格な会計基準に則った財務会計ベースの経理処理をした上で、不適切な処理がないか、不正や誤謬がないか、外部専門家によってチェックされる。一方、未上場会社は、オーナー社長の一存で、例えば節税を目的とした支出や、個人利用目的の支出をしても、税務署に否認されない限り問題は生じない。そのため、事業に関連のない費用が支出されやすい。これを放置していると、M&Aバリュエーションで大幅な過小評価をされてしまう。