◆EBITDAとは、「企業の本業から生じるキャッシュフロー」を簡便的に測定する財務指標であり、借入等利息、税金、減価償却費及びのれん償却費を差し引く前の利益を指す。キャッシュフローの精緻さではフリーキャッシュフローに軍配が上がるが、EBITDAは速やかに算定できる点で優れている。
◆この財務指標は、EBITDA倍率法において、事業内容、投資、実効税率や資本構成に関する類似上場会社との違いをある程度度外視して企業の事業価値を評価する際に用いられる。そのため、M&A案件のうちMid-cap(だいたい100億円以上)およびSmall-capの案件(5億円以上、特に20億円以上)で最も利用される財務指標である。EBITDA倍率法で使用するEBITDAは、調整EBITDAという調整値を使用する。評価者の倫理・知識・能力によって大幅に数字が変動するため、評価者を誰にするかが重要である。
◆EBITDAにおいて、利息を考慮しないのは、資金調達(他人資本や自己資本の調達)に関する損益は、事業自体とは関係がないものと扱うからである。税金を考慮しないのは、実効税率が会社毎のタックスプランで異なり、それに応じて事業価値が変わるのはおかしいからである。減価償却費を足し戻すのは、非現金支出費用であってキャッシュフローを減らさない費用だからである。のれん償却費も同様に非現金支出費用だからである。一方、より正確に事業キャッシュフローを反映するフリー・キャッシュフローと比較すると、EBITDAは、運転資本増減を考慮しない、資本的支出を考慮しない、単年度の実績しか評価しないという点で、対象企業の真の実力を示す財務指標しては大きく劣る。
【Plus】DCF法の重要性が高い対象企業
一方、M&A案件のうちLarge-cap(だいたい数百億円以上)では、またMidやSmall(つまり5億円以上)でも特殊要因が強い場合(ユニークな特徴がある対象企業の場合等)には、より精緻なDCF法の重要性が高まる。
【Plus】BB案件では簡便法のEBITDA倍率法も使用されないことが多い
さらに、M&A案件未満のBB案件(数億円未満、特に1億円未満)の場合、EBITDA倍率法でも評価の工数を要するため、さらに簡便な手法が用いられることが多い。重要要素を無視して計算するため過小評価や過大評価が多発する。(過大評価の案件は買主が敬遠するので)過小評価案件(バーゲンセール)を狙う買主にとっての「お宝市場(売却希望の3%が超お宝、10%がお宝)」となっている。昨今ではBB業者による(本来はM&A市場で高額売却できたはずの)優良中堅中小企業のバーゲンセールも確認されるため、売主は慎重に見極める必要がある(例えば、「大手で人数が多い」「CMで見た」などの選考基準がもっとも危険である。効率ばかり優先し、大量採用大量離脱モデルのため、モラル・能力不足の担当者に当たる確率が高まるからである)。
【Plus】未上場オーナー企業は絶対にEBITDAをそのまま使用しないこと
特に未上場オーナー企業を対象企業とするM&Aバリュエーションで使用する際、EBITDAを単純に用いて計算すると過小評価につながりやすいため、本当の実力キャッシュフローに近づけるための調整を施してから利用すべきである。このような会社は、顧問税理士による親切(税金を減らすために利益を減らす)がM&A会社売却の際に大きなマイナス(節税効果の何倍、何十倍のキャッシュインを喪失)になりやすいからである。
例えば、「オーナー親族役員全員を雇われ役員に切り替えたら抑制できる役員報酬」が年間5,000万円あるとする。また、その他オーナー経費として年間5,000万円の「事業運営に絶対必要と言え切れない経費」があるとする。合計で1億円の税務上の損金を上乗せしていたので、ザックリその1/3の3,000万円以上は節税できていたということになる。この1億円をそのまま放置していると、仮にEBITDA倍率が8倍であれば、実に8億円の事業価値の過小評価につながる。3,000万円と8億円のどっちが大事か?と問われれば、考えるまでもないが、目先の節税、目先のキャッシュアウト回避に目が眩んでしまうのが人間である。M&A会社売却をすると決意したら、節税の頭からM&Aの頭に切り替えるべき。「うちの親族は全員いつ辞めてもなんの問題もありません。」が保守的に評価する義務を負っている買主に全く通用しないこともあるのである。
EBITDAは、M&A交渉における株式価値算定の基礎となる重要な指標である。「いつのEBITDAで価格交渉するか」、「どのような調整をするか」、「事業計画期間の計画値EBITDAをどの水準まで伸ばすか」、これらに関して「事実に則した論理的な根拠を準備したか」が勝利への鍵となる。
【Plus】高額売却のためのポイント
「M&Aで高く売りたいので、少しでも見栄えを良くしたい」と思う売主としては、すぐに売上の規模や短期的な支出抑制に目を向けがちである。しかし、いかに売上を増やしても、目先の支出を減らしても、「経常的な実力水準」としてのEBITDAが減っていたら結果としてマイナスとなる点は肝に銘じておくべきである。自社のEBITDAを常に把握して、どのように効率的にEBITDAを減りにくく、増えやすくするか、が重要である。EBITDAが2倍になれば事業価値は単純に2倍になるし、収益性・安定性・成長性のある事業とみなされれば、EBITDA倍率も切り上がるので「ダブルのインパクト」となる。つまり、事業価値が3倍、4倍に切り上がることも決して夢物語ではない。逆に、何らかの1つの重大な選択ミスが事業価値を半分、1/3に圧縮してもおかしくない。M&A予定の数年前からこのようなことを意識して売却準備していくことを強く推奨する。できれば信用でき腕が立つ優良M&Aアドバイザーを早めに起用して売却準備段階から併走すれば、M&A的に有効な施策に集中し、無駄な準備をしなくて済む。