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M&A用語+

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M&A用語+

M&A用語は専門的なものが多く、誤用もされやすく、要注意です。
売却価格等の条件は、「取引関係者による評価」で決まります。
売主が成行任せは禁物で「買主サイドの評価を想定した準備」が勝敗を分けるのです。
取引関係者は、買主本人(買主の社内でも賛成派、反対派がいることも)だけではありません。
専門家(会計士、税理士、弁護士、コンサルタントが精査結果や価値評価を買主に報告)や、
銀行(買収資金の融資可否判断や融資条件を検討)等がどう評価するか、などなど。
買主サイドでもそれぞれの利益やリスクがあって、それぞれの主張があるのです。
正確な用語理解が、クライアント様の利益最大化への第一歩となります。
日本初の売主支援専業のM&A助言会社として、『売主様のためのM&A用語集』をご用意しました。
用語の意味に加え、知っておくべき豆知識をご紹介してますのでぜひ参考にしてください。

エフェクチュエーション(Effectuation)

◆エフェクチュエーションとは、バージニア大学ビジネススクールのサラス・サラスバシー教授が2008年に発表した比較的新しい経営理論であり、VUCA時代において、「成功した起業家」に共通して見られる行動パターンを体系化したものである。従来の経営理論をひとまとめに「コーゼーション」と呼び、「エフェクチュエーション」と対立する考え方としている点で画期的であり、特に、起業、新規事業開発、もしくはM&A準備活動中の企業価値向上や、M&A実行後のシナジー創造などの非連続的な局面で有益な考え方である。「リーンスタートアップ」という概念の発生源でもある。

◆「ゴール(経営目標)」を先に置いてから、あるべき行動を逆算して設計していく、従来型の意思決定モデル(コーゼーション)と異なり、起業家、新事業開発責任者やM&A統合責任者が直面する不確実な状況下で、「現在利用可能な経営資源」を先に並べ、実際の行動を起こしながら柔軟に修正して成果に繋げる、現実プロセス重視の経営理論である。つまり、コーゼーションは「予測可能な安定環境下であれば有益なトップダウン思考」で、エフェクチュエーションは「不確実な環境下で真価を発揮するボトムアップ思考」と言える。

◆競争状態を分析し進出・強化・撤退する意思決定を考える競争理論では、トップダウン思考のポーター学派に対し、ボトムアップ思考のRBV学派という対立があったが、「経営者の日々の行動パターン」を言語化した点で、エフェクチュエーションの功績は大きい。

◆この理論は、「人間の脳の仕組み」を模倣した機械学習、深層学習の仕組みに近いと言える。賞罰を設定し、とにかく学習させ、推論する。AIが急速に発展したのは、行き当たりばったり×大量処理が正解に到達するコスト(時間とお金)が小さく、その高速大量処理が実行可能な半導体が進歩したから、である。「人間の予測力はたいしたことないが、環境適応力は高い」「非連続環境下での成功に大事なのは仮説設定と試行回数」ということを示唆している。

◆最近成功した起業家の行動パターンがこのような「まず行動、壁にあたったら足元や周囲を見回し、目標や資源を切替え、最終的に高い場所まで到達する」というものなのである。日本では「人との縁(えん)」という考え方と親和性がある。

【Plus】エフェクチュエーションは、「どこに当たりがあるかわからないので、まず動いて当たりを探す」という「当たり探しステージ」を経て、「見つかった当たりを大きく広げる」という「事業化ステージ」の2段階に分解できる。前者はファシリテーター能力のある経営者が向いているが、後者は独裁的な経営者が向いているため、ステージごとに経営者のキャラクターを使い分ける二面性が求められる。

【Plus】M&A売主としてエフェクチュエーションを活用する場合、対象企業が持っている現在の経営資源にどのようなものがあるのか、どのような使い道がありうるか、どのような成果が見込めるのか、を買主にわかりやすく説明することが重要である。エフェクチュエーションをM&A売主が活用する際の最大の弱点は「伝えにくい」点である。なぜうまくいったのかが、AIと同じでブラックボックス化しやすい。しかし、「伝わらなければ無いのと同じ」がM&A会社売却のつらいところであるため、創意工夫して伝える努力が必要である。

【Plus】M&A成約後のPMIプロセスは、まさにエフェクチュエーションが有効である。現場知らずの経営コンサルタントに言われるがまま、頭でっかちアクションプラン(クライアントの評価が欲しく、創業者や現場の意見と全く異なる極端な方向転換)を掲げ、PMIに大失敗したM&A事例は枚挙に暇がない。結局、一番現場を知っている人同士で喧々諤々議論して「だいたいコッチに行くとして」「さしあたりコレやってみよう!」が良いのである。スポンサー等への事前了解が必要として、カチっと決め過ぎず、ザックリ枠を取っておくに止める方が後で調整が効く。

【Plus】エフェクチュエーションは、温厚さを備えたオーナー経営(温厚独裁型)との相性がよい。一方、M&A案件の買主の大半は、上場大企業や投資ファンドなどの組織的意思決定を要する慎重な大規模組織体であり、エフェクチュエーションとの相性はあまり良くない。したがって、一方では形式的にしっかりとした事業計画も準備しつつ、他方でその実行過程において柔軟に変更できるよう「二段構え」が望まれる。既存事業はコーゼーション、シナジーはエフェクチュエーションと分けるのも有効であろう。できれば、担当者には大きめの裁量を与え「この範囲内なら何でもやってみろ!最後は俺が責任取る(タイムリーに報告だけはしてね)」がよいのである。「やってみなはれ」精神は日本でも成功している。現場の士気にどれだけの影響があるかを考えれば当然である。

【Plus】また、M&A会社売却前の準備活動においても、エフェクチュエーションは、今ある経営資源のポテンシャルを柔軟に探し、人材や人脈を見直してぶつけまくり、芽が出そうなアイデアが見つかったら「小さくテスト」するだけであり、短期間で一定の効果が出やすい(失敗しても失敗が学びになる)。短期的に新ヒット商品や新マーケティング戦術を獲得することも夢ではない。このようなアプローチにより、M&A交渉時に企業の成長ポテンシャルをさらにアピールでき、より高い企業価値評価を獲得する助けとなる。特に、ここ数年間、安定重視で経営してきたのであれば、技術革新のすさまじい昨今、気づかぬうちに様々なチャンスが社内に潜んでいる可能性が高い。

【Plus】M&A交渉の際、エフェクチュエーションを基に改善した成果について具体的に開示できると、買主にさらに高いポテンシャルをアピールできる。特に、限られた経営資源をどのように有効活用し、リスクを抑えつつ成長や改善を実現したかを合理的にわかりやすく示すことは、買主にとって安心材料となり、企業の成長ポテンシャルを評価するポジティブ材料にもなる。「低コスト持続的成長システム内蔵の会社」を欲しがらないM&A買主は少ないはずである。

【Plus】ところで、売却準備にせよ、PMIにせよ、顧客視点でのパフォーマンス目標の再定義はしてからの方がよい。日本人特有の「過剰品質に伴う低生産性(=過剰な費用)」や「高度経済成長期の成功体験」などが「真面目に頑張るがゆえの企業価値向上の障害」という皮肉な結果を招きがちだからである。