◆従業員給与とは、雇用契約や就業規則に基づき、雇用主が労働者に対して支払う報酬の総称を指す。基本給、各種手当、賞与などを含む。
◆労働法上の従業員賃金に含まれるもの
▽基本給(法定):職務内容や雇用形態に応じて定められる固定給
▽手当(法定):割増賃金(時間外手当、深夜手当、休日手当)
▽手当(任意):就業規則等に定めを置いた場合に支給義務が生ずる役職手当、技能手当、資格手当、皆勤手当、歩合給、無事故手当、住宅手当、家族手当など
▽手当(実費補填):通勤手当、マイカー手当など
▽賞与(任意):就業規則等に定めを置いた場合に支給義務が生ずる業績等に応じた賞与
▽退職金(任意):就業規則等に定めを置いた場合に支給義務が生ずる退職時の金銭給付
◆ 労働法で雇用主に課せられる従業員賃金に関する重要な規制
▽最低賃金法:地域ごとに定められた最低賃金以上の支払い義務(最低賃金法)
▽労働基準法:賃金の支払い方法、時間外労働に対する割増賃金の支払い義務(労働基準法)
・賃金の全額払、通貨払、直接払、毎月一回以上の定期払の義務
・時間外労働に対する割増賃金の支払い義務
・未払賃金には遅延利息が発生し、悪質な場合は罰則
【Plus】企業価値向上を目的とした従業員給与の改善の必要性
M&A取引では、中長期的な視点から事業価値が評価される。従業員は価値を生むが価値を減らしもする生産要素であるため「中長期的な視点での労働による余剰価値」を最大化する報酬制度設計等が、M&A高額売却のため重要である。労働条件への不利益変更には制限があるし、従業員の受取り方次第では会社への忠誠心を失わせる危険もあるため、慎重に実施する必要がある。
従業員給与は、時間ベースで法的な賃金支払義務が課される費用であり、さらに、日本では解雇規制が厳格であるため、一度雇用するとマイナス貢献人材を整理することも困難である。一方、優秀で若い人材を採用し、意欲高く価値創造を続けてもらうには「魅力的な職場であること」を企業はアピールし続けなくてはならない。
企業の特徴に合わせ、次のような手段を上手に組み合せて従業員給与を最適化すべきである。必要とされない場所で雇用を続けない、必要とされる場所に異動させる事は、長い目で見れば従業員のためでもある。その時期が早い方が新しい職場でのスキル学習に対する柔軟性も残っているはずである。
【Plus】M&A高額売却のための従業員給与の仕組み改善方法
▽常時雇用の従業員(正社員等)に従事させる業務の整理:
・従業員給与は会社の強みに直接貢献する業務(バリューチェーン上の業務)に従事する従業員のみ。
・中長期的視点での中核事業とのシナジーが見込めない多角化事業や非中核事業は、売却・撤退する。
・中核事業の中でも生産性のない業務(バリューチェーン外の業務、過剰な会議や過剰品質サービス等)は止める。
・教育・退職リスクの高い業務は、中長期的視点からアウトソース(業務委託契約で社会保険料を節約)し、切替えや終了を容易にしておく。現従業員のフリーランス独立という形が最も効率的。
・機械でできる定型業務や機械の方が効率的な業務は、機械設備やITシステム(ERPパッケージ、RPA、生成AIやBIツール)にさせて、従業員には企業価値創造に貢献するクリエイティブ業務に集中させる。
▽常時雇用の従業員(正社員等)の給与体系・労働時間の最適化
・ジョブ型給与:年功序列ではなく職務(ジョブ)に対する報酬
・固定残業制(みなし残業制度):残業代を嵩増しするインセンティブを排除
・裁量労働制:該当職種の従業員がいれば可能。成果ベースの報酬体系
・フレックスタイム制:成果を重視した報酬体系
・業績連動型賞与:個人や組織の業績貢献に強く連動する賞与体系
・ストックオプションの導入:会社全体への貢献が将来の株式売却益となるストックオプション報酬(上場予定やM&A予定を公言できる場合のみ)
・ポイント制退職金制度(DB):貢献をポイント換算して退職金が変動する仕組み
・ランク別拠出退職金制度(企業型DC):貢献に応じた拠出額となる仕組み
・自由時間:本人の自発的な活動に充てられる時間を設定
・超過有給休暇:勤続年数が短くとも生産性が高い従業員に追加で有給を付与(法定最低日数を超過)
・週休3日制:総労働時間維持、給与減額、給与維持も可能
【Plus】M&Aでの人事DDで従業員給与に関する重要な指摘を受けないために注意すべきポイント
▽法律等・労働契約・社内規則・労働協約の整合性:労働契約、就業規則や労働協約の整合性、法的整合性が図れているかを確認する。
▽労働時間管理と割増賃金の適正性:時間外勤務が適切に管理され、割増賃金が正確に支払われているか精査する。
▽退職金制度の明確化:退職金の支給基準、積立状況、財務会計上の表示を正確にし、又は、簡易的な会計基準の場合も簿外債務(退職給付引当金等)を正確に開示できるように準備しておく。
▽従業員とのトラブルの有無:労働基準監督署からの指導歴、過去の労働問題(賃金・配置・解雇等に係る労使トラブル、ハラスメント等)を洗い出し、再発防止策が構築され運用されているか確認する。
▽非正規雇用との賃金格差:同一労働同一賃金となっているか確認する。