◆雇用契約とは、企業(雇用主)が労働者を雇い入れ、労働の提供と引き換えに賃金を支払う契約である。労働基準法などの法令に基づき、労働条件(業務内容、就業場所、労働時間や賃金など)が定められる。雇用契約は、労働者の権利保護を目的とした労働条件の明示義務や解雇規制の適用などを受けるため、ある程度の期間の将来計画の上で、契約形態や条件決定にあたっては一定の慎重さが求められる。
◆雇用契約には、絶対的明示事項(常に明示が必要、大半は書面交付も必須)と相対的明示事項(定めを設けた場合には明示が必要)がある。
絶対的記載事項:
※1~6は書面の交付を要する
1. 労働契約の期間
2. 有期労働契約を更新する場合の基準
3. 就業の場所・従事すべき業務
4. 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働(早出・残業等)の有無、休憩時間、休日、休暇および労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
5. 賃金の決定、計算・支払いの方法および賃金の締め切り・支払いの時期
6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
7. 昇給に関する事項
相対的明示事項:
8. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法および支払時期
9. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与および最低賃金額に関する事項
10. 労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項
11. 安全・衛生
12. 職業訓練
13. 災害補償・業務外の疾病扶助
14. 表彰・制裁
15. 休職
雇用契約に含まれる雇用形態とその特徴
雇用形態 | 定義・特徴 | 契約期間 | 社会保険の適用 | 解雇・契約終了 |
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正社員 | 無期雇用契約でフルタイム勤務。解雇規制が強く、福利厚生が充実。 | 無期限 | 適用 | 解雇規制あり |
契約社員(有期雇用) | 一定期間の雇用契約。期間満了後、更新または終了。 | 有期契約(例外除き最長3年) | 適用 | 契約期間満了で終了 |
パート・アルバイト | 短時間勤務で時間の融通が利く。基本的には時給制で、労働時間が短い。 | 通算5年以上で無期限に転換可能 | 条件付き(正社員の3/4以上の勤務時間)で適用 | 短期間での解雇が可能 |
派遣社員 | 派遣会社(派遣元)との雇用契約で、企業(派遣先)に労働者が派遣される形態。派遣先の指揮命令下で業務を行う。 | 無期又は有期契約 | 派遣元会社で適用 | 解雇規制あり |
嘱託社員(再雇用社員) | 定年後に再雇用される形態。給与は現役時より低いケースが多い。 | 1年契約など | 適用 | 契約期間満了で終了 |
試用社員 | 正社員採用を前提とした試用期間中の契約。一定期間を経て本採用へ移行。 | 数か月程度 | 適用 | 試用期間終了後に正社員登用 |
【Plus】M&Aで高い評価を得るための準備
労務管理の透明性と整備:就業規則や雇用契約書の整備が重要である。労働条件や賃金体系が曖昧な場合、買主に未払賃金等の偶発債務を連想させる。契約書のひな形を整備・統一し、最新の法改正に準拠していることを確認しておくべき。
労働関係法令の遵守:残業時間の発生状況や有給休暇の取得状況を正確に把握し、労基法違反等がないことを確認し、問題が見つかれば早めに対策を講じておく。労務トラブルや訴訟リスクが認識される場合、できるだけ事前にリスクを軽減・解消しておくべき。
福利厚生や研修制度の充実:福利厚生や従業員研修を充実させることで、従業員の定着率を高める。特に有能な幹部従業員や期待される若手社員の離職率を低い水準で保つための対策を講ずる。
人材の多様性と専門性のアピール:スキルマトリックスや人材データベースを整備し、従業員の専門性や多様性をアピールできるように情報を管理する。現在の業務に関係する職歴のみならず、前職以前の職歴も管理し、買主企業とのシナジー効果に貢献できる人材がいれば、それを強くアピールできる。
【Plus】M&Aで低い評価を避けるための準備
未払残業代等のリスク軽減・解消:過去の労基署の指摘事項や是正勧告を把握し、未払残業代等の未払賃金の精算方法に関する対策を事前に計画・実行しておく。
雇用形態の適正化:契約社員やパート社員が不適切な条件で長期雇用されている場合、無期転換ルールなどに基づき適正な雇用形態に変更する。偽装請負や名ばかり管理職がないかを確認し、必要であれば契約内容を修正する。
従業員満足度の向上:従業員満足度が低い場合、M&A後に大量離職が発生するリスクがあり、それを買主に悟られれば厳しい評価を下されるリスクがある。定期的な従業員との対面の面談等を実施し、従業員が抱える問題意識を把握して改善しておくことが望ましい。