◆就業規則とは、会社が従業員に対して遵守を求める労働条件や職場規律などを定めた規則である。労働基準法第89条に基づき、企業が従業員との労働契約を適切に履行するための基本ルールとして運用される。就業規則は、従業員の権利や義務を明確化し、労使間のトラブル防止や企業秩序の維持に役立つ。また、賃金や労働時間などの労働条件も明記されており、労働契約の補完的役割を果たす。
◆常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務がある。10人以上とは、正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員も含む。就業規則は労働者の過半数代表者からの意見聴取が必要であり、一方的に作成・変更できない点も重要である。
◆労働基準法第89条に基づき、必須記載事項は必ず就業規則に記載しなければならない。企業独自の規定を設けることで、社風や業務特性に合ったルールを追加することも可能である。
【必須記載事項】
労働時間(始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇など)
賃金(計算・支払い方法、締切・支払日、昇給に関する事項など)
退職・解雇(退職の手続き、解雇事由など)
【任意記載事項】
安全衛生(安全対策、健康診断など)
表彰・懲戒(表彰制度、懲戒解雇の基準など)
服務規律(業務態度、ハラスメント防止など)
福利厚生(慶弔休暇、育児・介護休業など)
◆就業規則はルールに過ぎず、現実的に全ての従業員に完全に理解させることが困難な面もある。むしろ経営者としては、関連トラブルが発生した場合に「ルールに不備がある」こと自体が問題視されるし、「従業員満足と不当な損失の最小化を両立するルール」によって企業の健全性を保つこともできる。現在の企業の状況に則し、必要レベルの就業規則を準備しておく意義は大きい。退職労働者を利用して成功報酬を稼ごうとする弁護士も存在している。不当な要求に対する訴訟余地を残さないことも重要である。
解雇や懲戒処分に関するトラブル:懲戒解雇が就業規則に具体的に明記されていない場合、不当解雇として従業員に訴えられるリスクがある。「普通解雇」や「整理解雇」の基準が曖昧だと、解雇無効を主張されうる。
長時間労働や残業代の未払い:労働時間の規定が不十分な場合、残業代未払いを巡って訴訟になるケースがある。休憩時間や休暇の規定が曖昧であれば、法令違反として是正勧告を受けることもある。
賃金トラブル:賞与や退職金が就業規則に記載されていない場合、支払いを巡って従業員が主張するケースがある。
ハラスメント対応の不備:ハラスメント防止規定がない場合、被害者からの訴えが外部機関に持ち込まれ、企業イメージが悪化する可能性がある。
【Plus】M&Aで低い評価を受けないための準備
M&Aの交渉は数か月以上、場合によっては年単位になることもある。そのため、M&A交渉期間中に労使間トラブルが起きるリスクは相応にあると考えておくべきである。従業員にM&A交渉の存在が漏れると、一部の従業員は合理的な理由もなく「なんとなく脱出する」人も出てくるし、その際に弁護士が絡んで「退職従業員も望んでいない想定外トラブル」に発展するリスクもある。万全の就業規則を用意しておく意義は大きい。
▽就業規則の法的適合性を確認:
・労働基準法や関連法令に適合した最新の就業規則を整備する。
・定期的に見直しを行い、労働基準監督署への届出が済んでいることを確認する。
▽懲戒・解雇規定の明確化:
・懲戒事由や解雇事由を具体的に記載し、恣意的な判断を排除するようにする。
・過去の労使トラブルをもとに、リスクが高い項目を重点的に見直す。
▽従業員への周知と同意:
・就業規則を従業員に周知徹底し、説明会やヒアリングを通じて理解度を高める。
・規則変更の際は、労働者の代表者から同意書を取得しておく。
▽未然にトラブルを防ぐ体制を整備:
・ハラスメント相談窓口や、労務監査の体制を整え、従業員の声を吸い上げる仕組みをつくる。
・懲戒処分の公平性を担保するため、複数の管理職で協議するシステムを導入する。
▽M&Aに向けた事前労務DD(デュー・ディリジェンス):
・外部の労務専門家(社会保険労務士など)に依頼し、就業規則の妥当性をチェックしてもらう。
・労働トラブルが発生している場合は、是正報告を作成し、買主に対して開示することで信頼性を高める。