◆ERPパッケージとは、企業の経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を統合的に管理し、業務プロセス全体を効率化するためのソフトウェアである。
◆財務管理、生産管理、在庫管理、人事管理など、企業のさまざまな業務(フロント系やバックオフィス系)を一つのシステム上で連携させ、データの一元管理やリアルタイムの経営管理を実現する。
◆一方で、中堅中小企業に多い、「会社1社で事業単一」の場合、ERPパッケージは無用の長物となりがち(自社開発(EUCシステム)の組合せと安価なクラウドパッケージで十分)であるが、グループ企業が増え、事業内容が多様になっていくと、各社各部門が独立して開発したITシステムでは効率的な管理やタイムリーな業績把握ができなくなる。つまり「部署間データバケツリレー」による業務遅延や単純ミスとの戦いとなる。
◆ITシステムも経営資源の1つに過ぎない。役に立つならITシステムを使えばよいし、そうでないなら使わない、だけである。ERP導入を含めDXの9割近くは失敗に終わっているそうである。「みんなDXやってる。うちも!」はパフォーマンス悪化マシンに高額コストを投じるのと同じである。ITシステム開発等を検討する前に、自社のパフォーマンスの目標設定、改善施策、測定、障害排除といった俯瞰的なPDCAサイクルの中で、改善の選択肢の1つとして検討すると結果が出やすい。
◆大企業向けのERPパッケージには、以下のものがある。機能が充実しており、導入・運用コストが相対的に高額である。
・SAP: 世界的に広範に採用されている。多様なニーズに対応、リアルタイムデータ分析や大規模な業務プロセス管理に対応。企業独自のカスタマイズに強み。費用は高額。
◆中堅企業向けのERPパッケージには、以下のものがある。機能とコストがバランスよくなっている。
・Oracle ERP Cloud: クラウド型ERP。グローバル企業に支持されている。拡張性と柔軟性に強み。クラウドなので料金はリーズナブル。
・Microsoft Dinamics 365: ERPとCRMの機能を兼ね備える。クラウドベースなので拡張性と柔軟性に強み。AI搭載で予測機能も。費用は従量制中心。
◆中小企業向けのERPパッケージには、以下のもの(会計中心のERP)がある。機能は限定的でバックオフィス業務が中心。導入・運用コストは相対的に低額である。
・SMILE V: 大塚商会が提供。日本企業向けに最適化された多様な機能を提供。
・OBC勘定奉行: 中小企業向け。財務管理と税務管理に特化。
・MFクラウド: 中小企業向け。財務管理、税務管理や労務管理に対応。
・弥生: 中小企業向け。財務管理、税務管理や労務管理に対応。
・freee: 個人の家計簿管理からスタート。シンプル操作性を重視。
【Plus】M&A売主がERPパッケージを導入することで、業務を効率化、作業ミスを減らし、コスト削減やプロセスの透明性を高められる。しかし、近い将来においてM&A会社売却を検討しているのであれば、拙速にERPパッケージを導入すると、M&A買主企業と同一であればよいが、異なる場合には逆に統合コストを膨らませてしまいかねない。
【Plus】そのため、まだ必要不可欠でないなら、ERPパッケージを導入しやすくする準備(業務要件を整理するなど)や、機能を限定した中堅中小企業向けのERPパッケージを採用するにとどめておく方が賢明である。少なくとも硬直的な会計ソフトを利用している場合、ERPに対応した会計ソフト(勘定奉行、弥生、MFなど)に切り替えておくとよい。通常2~3か月もあれば可能である。顧問税理士に促されるまま採用した会計ソフトは税務会計しか対応できず、財務会計(外部報告)や管理会計(経営管理)の機能すら不十分で、将来のレベルアップの障害となるためである。
【Plus】M&A交渉が始まってから、ERPで統一管理された業務データを、迅速正確に開示することで、各種デュー・ディリジェンスをスムーズに進行させることができる。ERPを活用していない場合でも、事前に準備しておいた情報を開示すれば、相応の効果を見込める。
【Plus】M&A買主がERPを利用している場合、PMIでのITシステム統合を検討する可能性が高い。対象企業のITシステムの仕様や管理データを分析することで、迅速かつ機能的な統合が可能になり、企業価値評価に結びつきやすい。