◆着地見通しとは、進行期の決算期末までの対象企業の経営成績を予測したものであり、通常、直近月末までの確定値に、その翌月以降決算期末までの予測値を合算したもの。確定値と計画値が混合した性質を持つ点で特殊。LTMの確定値・調整値や将来期間の計画値とともにM&Aバリュエーション上の重要性が非常に高い。
◆例えば、決算期末が3月末の対象会社について、買主に情報開示するタイミングが9月で、7月末までの月次実績が確定しているとしたら、4月から7月までの確定値に、8月から翌年3月までの予測値(計画値)を合算したものとなる。

【Plus】着地見通しは、計画値の信頼性を確保するのと同じ困難を伴う
着地見通しの予測期間部分は、事業計画で使用したフィナンシャルモデルと同じ精緻なモデルで計算すべきである。「銀行向けに鉛筆を舐めて作る着地見通し」と同じように扱ってはいけない。貸付金が返済されればよい銀行と違い、全リスクを負うM&Aでは、遥かに細かい部分まで検証されるからである。翌期以降の計画値はその全てが「売主経営者による予測」であるが、着地見通しもその一部は「売主経営者による予測」である。計画値は、特に成長中の企業や改善効果が表れる見込みの対象企業は、過去実績に傾斜した過小評価を避けるため、やや強気の前提を置いて計画値を策定すべきである。しかし、会社を高く売りたいインセンティブを持つ「売主経営者による予測」というものは、買主から見れば「眉唾」と見えてしまう所からスタートせざるを得ない。予測値に説得力を持たせることは容易ではない。誰にもわからない将来の未確定事象を金銭評価したものだからだ。しかし、当然、方法はある。計画値は、重要な財務指標(売上、売上原価や集客費用等)については、KPIレベルで分解し、さらにKPIの変動要因にまで遡って、複数の合理的なシナリオを用意し、「買主による納得感を」得られるよう努めるべきである。「この将来期間の売上は10%伸びます。いや伸ばします!」と気合依存で説明するのと「弊社の売上を構成する要素を顧客区分ごとに客単価と客数に分解し、今から起きうる市場変化を織り込んだ3つの現実的なシナリオに基づいて、現在進行中の施策の効果も加えて予測しますと、この区分の客単価、客数はこう、この区分はこう、結果、売上が10%伸びる可能性は4~6割程度は見込め、保守的に見ても5%増、幸運なら15%増までありうると考えております。」のように、ファクトとロジックで説明するのと、どちらが信用してもらえるだろうか。前提がなるほど、と思ってもらえるようになっていれば、むしろかなりの好感を得られる可能性も高い。着地見通しも同じである。業績評価やバリュエーションは「流れ」を扱う。整合性や連続性のない数字を見せても意味がなく、「情報管理体制に問題あり」という烙印を押されないよう、正確かつ迅速にモデルを、各期間が整合的に回せるよう売却準備をしておくと安心である。