◆ゲーム理論とは、経済や社会における複数の意思決定主体が、互いに影響を与え合う戦略的な状況を分析するための理論である。この理論は、プレイヤー(意思決定主体)が取る行動と、それに対する他のプレイヤーの反応を考慮し、最適な意思決定を導き出すことを目的とする。ゲーム理論は経済学、政治学、心理学、そしてビジネスにおいても広く応用されている。
◆ゲーム理論に含まれる代表的な経済学理論には以下が含まれる。ゲーム理論から導かれる洞察として最も重要なのは「信頼の構築」「情報の共有」の2つである。これらを実現できる相手を厳選し「協力拘束」した上で「協力ゲーム」をすることが最大の利得につながる。それができない場合「非協力ゲーム」や「ゼロサムゲーム」となり情報弱者が損をする(情報の非対称性)。

ナッシュ均衡: プレイヤー全員が自分の戦略を変更しても利益が改善しない状態を指す。すなわち、各プレイヤーが最善の行動を選択した結果、他のプレイヤーの行動に依存しており、全員が現状を維持することが最適とされる。
囚人のジレンマ: 両者が協力すれば最善の結果が得られるが、個々の利益を追求すると、両者にとって最悪の結果がもたらされるというジレンマ。ビジネスや交渉においては、協力と競争のバランスが重要なテーマとなる。非協力ゲームの一種。
ゼロサムゲーム: 一方が得をすれば他方が必ず損をするような状況。市場シェア争いや特定の契約項目に関する交渉などでは、この考え方が当てはまることが多い。協力による価値増大の余地がない状況であてはまる。
協力ゲームと非協力ゲーム: プレイヤー間の合意や協力が可能な場合と、各プレイヤーが自分の利益のみを追求する場合の2つのタイプがある。協力ゲームでは、契約や合意を通じて全員の利益を最大化するアプローチがとられる。協力ゲームは契約による拘束を伴ったシナジー効果の発現という場面で有効な理論である。
繰り返しゲーム:ゲームが一度で終わらず、前回の結果を踏まえて戦略を変更できるゲーム。事業経営において競合企業、提携企業との関係を整理する際に使用される。最も勝率が高い戦略は「しっぺ返し戦略」である。つまり、基本的に信頼関係を維持し相乗効果を最大にしつつ、相手が裏切ったら次回ゲームで報復するという戦略である。
【Plus】経営者として注意すべきリスクとチャンス
短期的リスク:競合他社との競争がゲーム理論的な視点で悪循環に陥ることがある。例えば、価格競争などがその典型例であり、競争相手が価格を下げると、自社もそれに追随せざるを得なくなり、利益率が低下するリスクがある。また、非協力的な競争が激化すると、市場全体が疲弊する可能性がある。
短期的チャンス:逆に、協力や合意を戦略的に進めることで、競争の激化を避け、全体の利益を高めるチャンスがある。例えば、業界全体での価格安定や供給の協調によって、健全な競争環境を維持しながら、利益を最大化できる。
長期的リスク:競争相手との関係性が一度壊れると、長期的にはその影響が拡大し、自社の戦略が制約されるリスクがある。特に、取引先やパートナー企業との競争が激化すると、サプライチェーンに悪影響を及ぼすことがある。
長期的チャンス:長期的な協力関係を築くことで、競合相手やパートナーとの戦略的提携が可能になり、市場の安定や新規市場の開拓が進めやすくなる。共通の利益を追求するための合意や協調を図ることで、持続的な成長が期待できる。
【Plus】オーナーとしての株式価値の視点
好況期:戦略的な協力や市場シェアの拡大によって、自社が優位なポジションを確立し、他のプレイヤーに影響を与えることができれば、利益の増加とともに株式価値が上昇する可能性が高い。特に、合意や協調を通じて市場での地位を固められる場合は、株価にもプラスの影響が期待できる。
不況期:不況時には、競争が激化し、ゼロサムゲーム的な状況が発生する可能性がある。この場合、自社の戦略が他者に影響を与える度合いが大きいため、株式価値が競合他社の動き次第で大きく変動するリスクがある。ただし、他社との協調や市場安定に向けた努力が実を結べば、株価下落を抑えられる可能性もある。