◆のれんとは、M&A取引における対象企業の取得対価(株式価値)が対象企業の時価純資産(NAV)を超える部分を指す。企業結合会計・連結会計上の概念であるとともに、対象企業の超過収益力(人財による創意工夫や研究開発・営業・マーケティング・CRM等の努力が無形の資産として企業に蓄積されたもの)を表す概念でもある。

◆PPAを実施した後の「のれん」は「具体的な無形資産として識別不能な企業全体としての超過収益力」を示す。PPAで識別される無形資産(具体的な超過収益力)は以下のようなものである。
▽ブランド(コーポレート/屋号/商品サービス)
▽顧客リスト(優良顧客の基盤など)
▽契約(有利な契約など)
▽知的財産(特許権などの権利化された知的財産、権利化していない知的財産)
▽技術(製造技術など)
▽ノウハウ(製造、販売、採用教育などのノウハウ)
◆企業会計基準(J-GAAP)におけるのれんの会計処理は、以下の通りである。償却負担があるため、日本企業はのれんを嫌う傾向が強い。
▽のれん償却(毎期の償却):買収時に計上したのれんは、20年以内の合理的な期間で規則的に償却する必要がある。通常、保守的に5年〜10年の償却期間が設定されることが多い。
▽減損損失(臨時の一括償却):減損の兆候がある場合等、減損損失として一括償却する必要がある。
◆国際財務報告基準(IFRS)では、のれんの会計処理はJ-GAAPとは異なり、以下のような扱いとなる。
▽のれん償却不要:のれんが持つ価値は時間とともに減少するものではなく、事業の継続とともに維持されると考えられるため毎期の規則的な償却は不要であり、キャッシュフローが安定・成長している限り、永久に計上できる。
▽毎期の減損テスト義務:IFRSでは、のれんは毎年必ず減損テストを実施し、価値が低下している場合には減損損失を計上しなければならない。
【Plus】売却額は大きく(売主メリットUP)、のれんは小さく(買主デメリットDOWN)する方法
▽のれんを小さくできれば高額売却につながる:M&A交渉では、売主はできるだけ高く売りたいが、買主は「のれん」が大きいと、将来の減損リスクや毎期の償却負担が重くなるため、交渉が難航する可能性がある。このため、M&A売主としては、売却額を大きくするためにも、のれんを小さくする工夫が重要になる。
▽のれんを小さくするには無形資産を大きくする:のれんを抑えつつ高値で売却するには、のれん以外の「識別可能な無形資産」を増やすことがポイントとなる。
方法 | 説明 | 買主へのメリット |
---|---|---|
無形資産の評価増 | ブランド価値、特許、ノウハウ、ソフトウェア、顧客リストなどを適切に評価してもらうための契約整備や情報管理等の準備や情報開示を積極化。 | のれん償却負担や減損リスクを軽減 |
収益力を示すデータの充実 | 大きな無形資産の根拠として説得力のある高い収益力を実績として残す。具体的な成長改善施策を用意し実行する。各部門レベルでの情報管理体制も重要。 | 買収判断の納得感向上 |
【Plus】高額売却の秘訣は高品質な情報の管理と開示にあり
M&A買主候補ににこれらの存在と価値を生むメカニズムをインフォメーション・メモランダムやDD開示資料の中でアピールすることで、M&A競争環境を構築しやすくなるとともに、高額売却を正当化できる。M&A売主も強い関心を持つべきである。ユニークな強みを持つ優良企業を、年買法等のバーゲン価格で売却してしまうということは、過去の努力の結晶を買主に無料で寄付するのと同じである。優良なM&Aアドバイザーを起用し、活発なM&A競争環境の中で、優れた複数の買主候補に、創造的にシナジー効果を検討してもらいながら、最大限の売却額を目指すべきである。そのためには、情報管理や情報開示の品質を向上するための売却準備が極めて重要となる。