◆中小企業の会計に関する指針(中小会計指針)とは、企業会計基準(J-GAAP)と中小会計要領の中間的な位置づけの、財務情報利用者が限定的な中小企業が準拠することが望ましい会計処理や注記等を示す会計ルールである。担保や経営者保証に過度に頼らず間接金融(銀行ローン等)で資金調達をスムーズに行い、取引先の信用を確保しつつ、会社法の債権者保護制度(違法配当禁止等)を機能させること等を目的としている。
◆経済のグローバル化に伴い、財務諸表の比較可能性の観点から、世界共通の会計基準の必要性が高まり、日本の企業会計基準(J-GAAP)も国際会計基準(IFRS)とのコンバージェンス(収れん)の動きが生じた。しかし、日本企業の圧倒的多数は、高度な財務会計に対応する余力のない中小企業であり、また、税務会計でも(外部報告の必要性がない限り)特段の支障もない。そこで、2005年に日本公認会計士協会、日本税理士連合会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会の4団体によって、中小会計指針が策定された。特に会計参与設置会社である中小企業向けの会計ルールと位置付けられている。

◆企業会計基準(J-GAAP)と比較すると、以下が組み込まれていないため簡便である。
▽厳格な収益認識基準
▽時価会計
▽減損会計
▽広範な引当金
▽連結財務諸表作成義務 など
◆中小会計要領と比較すると、以下が組み込まれておりやや厳格であり、全体としてレベル的に中間的な会計ルールである。
▽税効果会計
▽退職給付会計
▽組織再編会計 など
◆中小会計指針で定められる各論部分は以下のとおり。立場的には税務会計寄りであり、会社法の会社計算規則を前提としているが、J-GAAPの改正も視野に入れ最低限の負担で重要な会計手法を取り入れている。J-GAAP等といった上位の会計基準を原則として、その簡便処理を許容する形で定められているものが多い。
▽中小会計指針の各論:
1 金銭債権
2 貸倒損失・貸倒引当金
3 棚卸資産
4 経過勘定等
5 固定資産
6 繰延資産
7 金銭債務
8 引当金
9 退職給付債務・退職給付引当金
10 税金費用・税金債務
11 税効果会計
12 純資産
13 収益・費用の計上
14 リース取引
15 外貨建取引等
16 組織再編の会計
17 個別注記表
18 決算公告と貸借対照表及び損益計算書並びに株主資本等変動計算書の例示
【Plus】会計を甘く見るM&A売主の末路
本来のM&Aとは(上場企業クラスから見て一定の重要性のある)中堅中小企業以上を対象企業とする資本取引である。また、新規上場(IPO)とは、一般投資家による株式売買ができる公開市場に上場する手続きであり投資家保護のため厳格な情報開示が要求される。中小会計指針は「一般に公正妥当な会計基準(J-GAAP)ではないため、J-GAAPに準拠せず上場企業等を買主としてM&A会社売却を実行すれば、事実上の「裏口上場」になってしまう。問題を放置して監査法人が無限定適正意見を表明できなくなれば、買主企業の株価維持等に支障が出るリスクもある。そのため、M&A直後に速やかに上場親会社が採用する企業会計基準(J-GAAP)への統一化が必要となる。そのためのコストが小さくないため、M&A売主が会計業務を軽く見ていると、株式価値のディスカウントという形で大きなダメージを負ってしまう。
【Plus】売却準備によってディスカウントや破談を防止
もし、中小会計要領や中小会計指針といった税務会計を採用している対象企業を高額売却したいのであれば、M&A売主は、できれば中小会計指針に正確に準拠しつつ、「企業会計基準(J-GAAP)との差異」もしくはさらに踏み込んで「J-GAAP準拠に必要なインプット情報が整備されていること」について補足情報として開示できるようにしておくことが望ましい。売却準備の中でも費用対効果の高い項目の一つである。買主CFO等の「サラリーマン・ポジショントーク(給料増えないのに負担が激増する。できればM&A案件潰れてほしい)」によって破談にされる事態を避けられる効果も大きい。
【Plus】BB案件の場合
一方、零細企業を対象企業とするビジネスブローカレッジ案件(BB案件)の場合、買主が上場企業ではなく未上場会社や個人になることも多い。上場会社が買主になったとしても、グループ全体としての重要性は乏しく、監査上問題にならないケースも多い。しかし、経営管理の効率性の観点から主体的に統一化を図る買主も少なくない。このように買主の判断が不明な状態で売却交渉を始めないといけないため、無理にM&A案件レベルの売却準備をする必要はない。