◆企業の安全衛生とは、従業員が健康かつ安全に働くための環境を整備し、職場での労働災害や健康被害を防ぐための取り組みを指す。企業が適切な安全衛生管理を実施することは、法的義務であるだけでなく、生産性向上や企業価値の向上にも寄与する。
◆日本において安全衛生に関する主な法規制は以下の通りである。
▽労働安全衛生法(安衛法)
・事業者の安全配慮義務(職場環境の整備、危険防止措置の実施)
・労働災害の防止措置(危険物・有害物質の管理、安全教育の実施)
・産業医・衛生管理者の選任義務(一定規模以上の事業場で義務化)
・従業員の健康管理(定期健康診断、ストレスチェック制度)
▽労働基準法
・長時間労働の規制(過労死防止、健康確保措置)
・労働災害補償制度(業務上の災害に対する補償義務)
▽労働災害補償保険法(労災保険法)
・労災保険の適用(労働者の業務災害・通勤災害を補償)
・労働災害発生時の事業者の対応義務
▽化学物質管理法(化管法)
・有害物質の取り扱い規制(化学物質の適正管理)
・従業員の健康リスク低減措置
◆安全衛生基準の品質を外部に証明する方法として以下がある。
▽労働安全衛生マネジメントシステム(ISO 45001)
・国際基準に基づく労働安全衛生管理体制の構築
【Plus】従業員を守る姿勢を示す企業価値向上に向けた意義
労働環境が良い企業は、従業員の定着率が高まり、優秀な人材を確保しやすい。安全衛生対策が徹底された職場では、生産性向上が期待でき、企業の競争力を強化できる。
【Plus】M&Aの人事DDで安全衛生の問題として指摘されやすいポイントは以下のとおり。
▽労働災害・職業病に関する未対応:
・過去の労働災害に関する記録が適切に管理されていない。
・災害発生時の企業の対応が不適切で再発防止策も講じられていない。
▽安全衛生管理体制の不備:
・法的義務があるのに産業医や衛生管理者の未選任・管理体制が未整備となっている。
・従業員の健康診断やストレスチェック未実施となっている。
▽長時間労働やハラスメント問題:
・過去の労基署指導歴や労災事故から、恒常的な重大問題があるとみなされる。
・ハラスメントの社内対策が不十分であり、社内外のレピュテーションリスクが高いと評価される。
▽安全衛生マニュアル・研修の未整備:
・安全教育や労働環境改善の取り組みが不足している。