◆運転資本増減とは、運転資本の年度単位での増減額のことである。
◆主に、M&Aバリュエーションのうち、DCF法による評価で不可欠なフリー・キャッシュフローの構成要素として重視される。
【Plus】運転資本増減のバリュエーションへの影響
一見良いことに思えるが、売掛金が増えることはバリュエーション上はマイナスである。逆に未払費用が増えることはバリュエーション上はプラスである。「事業=キャッシュを増やすゲーム」と考えると理解しやすい。「売上が全部即金で、費用は全部長期後払い」だと会社オーナーとしては非常にうれしいはずである。とどのつまり、対象企業の株式価値とは、株主に配分してもよいフリー・キャッシュフローを将来どれだけ稼げるか、である。売掛金が増えるということは、キャッシュ→仕入→売上・売掛金→キャッシュという流れの途中にあり、売掛金という非キャッシュ資産に投資している金額が増えている状態と言える。売上が増加したため売掛金も増えているのは良いことではあるが、キャッシュになるまで時間を要する点、回収不能リスクがある点が問題なのである。さらに、売掛金の回収サイトが長期化したため売掛金が増加するのは悪いことだし、バリュエーション上もマイナスになる。逆に、今はキャッシュを減らさないで済んでいる未払費用は、キャッシュが未払費用によって浮いている状態である。キャッシュを払うまでの時間を稼げているので、バリュエーション上はプラスになる。「収入は早く、支出は遅くできると、価値が高まる」というのは腹落ちしやすいはずである。
【Plus】運転資本増減のインパクトは意外に大きい
思いのほか株式価値評価に与えるインパクトは大きい場合もあるため、売主オーナーは、売却準備活動の中で、「運転資本の増加ペースを抑制しながら成長する施策」を策定・実行することを推奨する。売上を増やすよりも運転資本を減らす方が容易な場合も多いからである。バリュエーションへの影響は同じか(売上が増えても応じて費用も増えキャッシュフロー増大効果は限られるので)売上増加よりも大きいケースもある。顧客や決済会社との条件変更、仕入先や取引先との交渉や資金繰り最適化モデル・在庫最適化モデル等が必要になるが、上場会社はこのような施策に多大な労力を割いていることも多い。何もせず、買主に会社を手渡してしまうということは、すぐ改善を図る賢い買主に、売主からお返しなしで大金をプレゼントするようなものである。