◆漸進的イノベーション(Incremental Innovation)とは、既存の製品やサービス、ビジネスプロセスを徐々に改善し、持続的な競争優位を確保するイノベーション。企業が市場変化に適応しながら成長を続けるためのツールとなる。
◆一方、破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)とは、既存の市場構造を根本から変革し、新たな価値基準を作り出すほどのインパクトを伴ったイノベーション。従来の市場リーダーにとって壊滅的な脅威となる一方で、イノベーションリーダーである新規参入者にとっては既存市場での類似需要を一気に奪い尽くすチャンスとなる。
◆ 漸進的イノベーションの具体例としては、以下を挙げられる。
▽自動車業界の燃費向上技術:ガソリン車の燃費向上やハイブリッド技術の進化など、既存技術の改良による性能向上。
▽家電業界のスマート家電の機能進化:既存の家電製品にプログラムを搭載し多彩な機能を付加したり、IoT技術によるスマートフォン連携を可能にする改良。
▽IT業界のソフトウェアの性能向上:MicrosoftやAdobeが提供する定期的なソフトウェアアップデートにより、UIの改善やセキュリティの強化を行う。
◆ 破壊的イノベーションの具体例としては、以下を挙げられる。
▽デバイス業界のスマートフォン:従来の携帯電話市場を完全に塗り替え、デスクトップPCやノートブックPCに代わる高性能情報端末へと進化。
▽映像コンテンツ業界の動画ストリーミングサービス:Netflixに代表される動画ストリーミングサービスの登場がDVDレンタル市場を崩壊させ、映像コンテンツの消費スタイルを劇的に変化させた。
▽金融業界のフィンテック(スマホ決済・仮想通貨):銀行の決済システムに依存しない新しい金融サービスが普及し、従来の金融機関のビジネスモデルに大きな影響を与えた。
◆企業価値を高めるためのイノベーションに関する攻撃と防御として以下を挙げることができる。
▽攻撃(新規事業戦略・市場拡大)
・漸進的イノベーションを活用した持続的成長:既存事業の改良を積み重ね、収益基盤を安定させる。
・破壊的イノベーションを活用した市場創造:既存市場を置き換える革新により新市場を開拓する。
・イノベーションに伴い発生する隙間市場:イノベーションによって商品・サービスが置き換わると同時に、隙間ニーズが発生する。中堅中小企業は、独自の強みを生かせる商品・サービスを迅速に市場投入することで、イノベーションのための莫大なコストをかけずとも成長チャンスを作ることができる。
・不足する経営資源をM&A等で獲得:イノベーションを活用した成長戦略のために不可欠であるが、自前開発では手遅れとなる革新的な技術を、CVC、資本提携、M&A等によって速やかに獲得する。
▽防御(競争環境からの防衛策)
▽漸進的イノベーションを活用した競争優位の維持:競争相手に追随されないよう、改良を重ねる。
▽破壊的イノベーションに対応する柔軟な経営戦略:既存市場の破壊を前提に、事業構造を変革する。
▽イノベーションの持続を見越した戦略的事業売却(M&A):事業価値を高く評価してもらえるうちに、将来性の薄くなった既存事業、維持コストの増大が見込まれる既存事業を早めにM&A会社売却することで、成長事業に大きくシフトする等の経営資源配分の最適化が可能となる。
【Plus】M&A売主がイノベーションという環境を高額売却に利用する視点
▽高品質な情報開示でイノベーション実績を示す:イノベーションに関する各種情報(開発からユーザーの声などまで)を整備し、高品質な情報開示(初期的情報開示からDD開示資料まで)によってM&A売却交渉の材料として活用する。いかに財務的貢献が大きく、模倣困難で、運用上の問題もないか(VRIOフレームワーク)を具体的にわかりやすく説明すると、買主の期待を膨らませ、不安を減らすことができる。
▽M&A後のシナジーシナリオを描く:買収後のシナジーや成長シナリオをイノベーションを絡めて明確に描き、売却価格を高めるための交渉材料とする。