◆競争環境分析とは、競争優位性を確立するため、自社が属する市場での競争要因を把握・分析することを指す。競争環境を常に正確に理解することで、自社の立ち位置を明確にし、適切な経営戦略やM&A戦略を立案することができる。特に、M&A売主にとっては、競争環境分析を適切に行うことで、自社の強みを明確にし、シナジーの大きい買主候補に魅力的な成長戦略を提案できることにつながる。
◆競争環境を正確に把握するために、以下の情報などを収集する。できるだけ定点観測し、気付きを記録しながら、経営意思決定を改善していくことが望ましい。
カテゴリ | 具体的な情報 |
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市場動向 | 市場規模、成長率、トレンド(技術革新、規制変更など) |
競争構造 | 主要プレイヤー、市場シェア、競争激化の度合い |
顧客動向 | 主要顧客層、購買決定要因、ブランドロイヤルティ |
競合企業情報 | 主要競合の事業戦略、製品・サービス、価格戦略、マーケティング・営業戦略、コスト戦略、資金調達戦略など |
コスト構造 | 主要コスト要因、業界平均コスト |
規制・法務環境 | 業法・規制、政府の助成金や補助金 |
技術革新 | 技術トレンド、知的財産の活用状況 |
◆競争環境分析に使える主なフレームワーク
主なフレームワーク | 概要 | 活用場面 |
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PEST分析 | 1.政治(Political) 2.経済(Economic) 3.社会(Social) 4.技術(Technological) の4要因で競争の前提条件を分析 | ・外部環境の変化を把握 ・変化を事業機会に活用 |
5 Forces分析 (ファイブフォーシズ分析) | 1.競争企業間の競争 2.新規参入の脅威 3.代替品の脅威 4.供給者の交渉力 5.顧客の交渉力 | ・競争環境の全体構造を分析 ・具体的な競合企業の動向把握 |
SWOT分析 | S(Strength)=強み W(Weakness)=弱み O(Opportunity)=機会 T(Thread)=脅威 | ・自社の競争力を整理 ・戦略策定に活用 |
VRIO分析 | V(Value)=経済価値 R(Rarity)=希少性 I(Imitability)=模倣困難性 O(Organization)=組織統合 | ・自社の持続的競争優位性を判断 ・企業のユニークネス |
◆フレームワークを活用する際には、以下の限界を理解しておくべきである。
▽定性要因の数値化困難性:競争環境変動要因には定性的な要因のものも強いが、数値化が難しい(可能ではあるが現実的には費用的に不可能)ケースが多い。
▽解釈の個人差:フレームワークでの分析結果に対する解釈次第で異なる結論(最適意思決定)が導かれる。一個人による分析・解釈の完結は避けるべきである。
▽時間経過:競争環境はダイナミックに変化するため、定期的な更新が必要となる。また、競争条件を大きく変更するイベント(画期的な技術の登場、法改正、天災、パンデミック等)が生じた際には、臨時で根本的なアップデートを必要とする。
▽業種やBMの差異:業界やビジネスモデルによって有益なフレームワークが異なるため、複数の視点を組み合わせ、総合的に評価する必要がある。
▽思い込み:客観的な視点が必要であるのに、先入観、成功体験や願望等が優先してしまうと、分析が意味をなさなくなる。必要に応じ、専門家による客観評価を参考にすべきである。特に、1社単独ではなく、2社間でのシナジー効果も考慮すべきM&A取引を予定しているM&A売主は、早めに優良なM&Aアドバイザーと二人三脚で売却準備を開始することが望ましい。
【Plus】経営者が、競争環境分析と同時に、新規事業や新商品・サービスを検討するメリット
▽競争の少ない市場を見つけられる:競争が激しい市場では市場シェアを確保しにくく、利益率も低くなりやすい。競争環境分析により、自社の競争優位性を活かせる新市場やニッチ市場を開拓できる可能性がある。
▽成功しやすいドメインや商品サービスの選択:既存事業の強み(ブランド・技術・知財・顧客・取引先など)を活かし、新事業や新商品サービスを開発することで、高い資本効率で成長できる可能性がある。
▽競合企業の模倣機会:競合企業を分析することで、顧客ニーズの変化を把握したり、競合企業の開発・販売などの視点を模倣する機会が生まれる。
【Plus】M&A売主として、競争環境分析と同時に、M&A買主候補を検討したりシナジー効果を検討するメリット
▽シナジーが大きい買主を探索しやすくなる:自社の競争優位性をさらに強化できる具体的な買主候補とシナジープランを創案しておくことで、より高いバリュエーションを引き出せるM&A交渉市場を創造しやすくなる。
▽M&A買主が求める価値を明確に提示できる:同業買主候補も同じ競争環境の中にいるため、何を求めているかを分析することで、M&Aストーリーを適切に設計できる。できれば、周辺業界の競争環境まで分析範囲を拡大しておくと、類似・関連業界の買主候補の思考についても概ね正確に理解できる場合がある。
▽M&A交渉を有利に進められる:競争環境を分析し、対象企業の強みや成長機会をアピールしたり、買主の課題を解決・軽減するM&Aストーリーをアピールすることで、対象企業の株式価値評価を高めるための交渉をしやすくなる。
▽PMIの成功確率を上げられる:シナジー候補や対象企業の課題を把握し、可能な範囲で、売却準備しておくことで、スムーズで効果的なPMIが可能になる。高額売却、早期の円満引退、多段階株式譲渡スキーム、補償リスク軽減などに有益である。