◆新規株式公開(IPO)は、企業が自社の株式を証券取引所に公開して投資家に売却し、株式を市場に上場させるプロセスである。これにより、企業は一般投資家から資金を調達し、取引所での売買を通じて株式の流動性を向上させる。IPOの際、募集(新規発行株式を買い受ける投資家に売却)と売出(既存株主の持ち株を売却)が行われる。
◆日本には複数の上場市場があり、各市場で上場基準が異なる。代表的なものを以下に示す。
プライム市場:大規模で国際的な投資家をターゲットにした市場で、厳格なガバナンス、流動性基準、時価総額、財務状況が求められる。
スタンダード市場:中規模企業向けで、成長を目指す企業の上場が許される。流動性や時価総額基準がプライム市場よりは緩やかである。
グロース市場:高い成長を見込むベンチャー企業向け。収益性よりも成長性が重視され、流動性や財務状況基準も比較的緩い。
◆上場基準には、収益性、流動性、時価総額、株主構成、ガバナンス体制、内部統制などが含まれる。
◆IPOをするメリット(M&Aで売る場合との比較も含む)には以下のものを挙げられる。
資金調達:IPOは、新たな資本を大規模に調達する手段であり、上場後も株式発行による資金調達が可能である。M&Aによる売却では即時の資金確保はできるが、継続的な資金調達は難しい。
企業のブランド向上と信頼性:上場することで企業の知名度や信頼性が向上し、取引先や投資家の信頼を得やすくなる。
株式の流動性向上:IPOにより株式が取引市場に流通し、経営者や初期投資家が自由に株式を売却しやすくなる。一方、M&Aによる売却では株式の市場での取引がなくなる場合が多い。
株主の多様化とリスク分散:IPOにより多様な投資家が株主となり、リスクが分散される。M&Aによる売却は、買収先が特定の企業に限定される。
◆IPOをするデメリット(M&Aで売る場合との比較も含む)には以下のものを挙げられる。
コストの増加:IPOには高額な準備費用、監査費用、法務費用がかかる。また、上場後も情報開示コストや取締役会運営などが継続的に発生する。M&Aでの売却は一度の取引で完了するため、持続的なコストは少ない。
経営の透明性と制約:IPO後は株主や規制当局に対して定期的な情報開示が求められ、企業の経営が透明化される。M&Aで売却した場合、非公開企業として経営が続く限り情報開示の義務は緩やかである。
短期的な株価変動リスク:IPO後、企業価値が株価に直結するため、短期的な業績変動が株価に反映されやすくなる。M&Aによる売却は、株価変動リスクが軽減される。
敵対的買収リスクの増加:上場により株式が市場で売買されるため、第三者による敵対的買収のリスクが増加する。
◆IPOをするための手続きとして以下を挙げられる。
準備:内部体制の整備、内部統制の強化、事業計画の明確化など、上場準備が必要である。
監査:IPOに先立ち、数年分の財務諸表の監査が必要である。
書類の提出:証券取引所や金融庁に対して上場申請書類を提出し、審査を受ける。
証券会社との連携:主幹事証券会社の選定および株価の設定、株式の引受け手続きなどが必要である。
◆M&AとIPOの異同点として以下を挙げられる。
株式の流動性:IPOにより株式が市場で売買可能になり、流動性が向上する。一方、M&Aは流動性向上を目的としない。
ガバナンスと透明性:IPO後は、情報開示が求められるため、ガバナンスが強化される。M&A後は非公開企業になるケースが多く、情報開示義務が低い。
所有権の移動:M&Aは一時的に所有権が移転することが多いが、IPOでは多数の投資家に株式が分散されるため、所有権は不特定多数に広がる。
【Plus】M&AとIPOを組み合わせる方法(先にM&Aで投資ファンドと組んでIPOを成功させる)は以下である。自力でIPOをする負担を和らげることができる。
投資ファンドとの連携:まず、投資ファンドが企業に資金を投入し、内部体制の強化や成長支援を行う。
上場の準備:ファンドの支援により経営体制や財務基盤を強化し、IPOの準備を整える。
IPO実施:IPOによりファンドが部分的に退出し、企業の価値向上と資金調達を実現する。
【Plus】M&AとIPOを組み合わせる方法(先にIPOしてTOB (M&A) で最終現金化する)は以下である。IPO後、会社を急速に拡大させられれば、M&Aによる株式の現金化を最大化できる。
IPO実施:まずIPOを行い、経営の透明性とブランド価値の向上を図る。
TOBによる買収:上場後に公開買付(TOB)を通じて買収し、企業価値向上後に買収先が現金化を図る。上場後の市場価値が買収価格のベースとなるため、株価が高い場合に戦略的に売却が行われる。
【Plus】IPOもM&Aも株の代わりにキャッシュを投資家から出してもらうために情報開示が重要である理由
IPOもM&Aも、投資家が企業の価値を正確に評価するためには、透明性のある情報開示が不可欠である。不十分な情報開示は、投資家が適切な判断を下せなくなり、将来的な株価下落や経営リスクの顕在化による信頼の失墜を引き起こす。M&Aでは特に買収価格に影響を及ぼし、適切な情報が提供されないと過小評価や過剰評価が生じ、双方の利益を損なう恐れがある。