◆労働法とは、労働者の権利を保護し、労働条件の適正化を目的とする法律の総称である。労働者が不利な立場に置かれやすい時代の名残りを反映し、労働契約や賃金、労働時間、安全衛生など、労働に関するルールを企業に義務付けることで労働者の生活の安定を図ることが目的である。
◆労使間のパワーバランスが労働者側に偏りやすい「人手不足時代」では、誠実な経営者にとって「過剰な労働者保護」と言える規制も存在しており、特に厳格過ぎる解雇規制は、労働市場の硬直性や成長分野への人材移動を阻害していると批判されることも多い。
◆代表的な法律と概要は以下のとおり。
▽労働基準法:労働条件の最低基準を定める法律。労働時間、休暇、賃金、不当解雇の防止などを規定しており、労働者保護の基本となる。
▽労働契約法:労働契約に関する基本的なルールを定める法律。労働契約の締結・変更・解除の際の公正な手続きや解雇制限を定めている。
▽労働安全衛生法:労働者の安全と健康を確保するための法律。企業に対して、労働災害の防止措置や衛生管理体制の構築を義務付ける。
▽最低賃金法:労働者が受け取る最低限の賃金額を保証する法律。各都道府県ごとに最低賃金が設定されており、企業はこれを下回る賃金を支払うことができない。
▽労働者派遣法:派遣労働者の保護と適正な労働環境を保証する法律。派遣期間の上限や派遣先企業の義務などを定める。
▽男女雇用機会均等法:性差別を禁止し、男女平等な雇用機会を提供することを目的とする法律。
▽育児・介護休業法:労働者の育児や介護と仕事の両立を支援する制度を定める。育休・介護休業の取得要件や期間が詳細に規定されている。
◆違反時のペナルティには以下のようなものがある。
▽行政指導・是正勧告:労働基準監督署などが違反を発見した場合、是正勧告が行われる。勧告に従わない場合は、企業名が公表されることがある。
▽罰金・刑事罰:悪質と判断された場合、罰金刑や懲役刑が科される可能性がある。
▽民事訴訟・損害賠償:労働者から訴えられた場合、損害賠償や未払賃金の支払いが求められる。
▽行政処分(営業停止処分など):労災事故や安全基準違反が発覚した場合、営業停止命令などの厳しい処分が下されることがある。
◆M&A売主がマイナス評価を避けるためのポイント
▽労働法遵守状況の確認と是正:買主に開示しないまま意向表明書を受領し、重大問題がデュー・ディリジェンス(DD)で重大な労働法違反発覚すると、買主は株式価値評価額を引き下げるか、取引自体を中止(破談)する可能性がある。事前の売却準備によって欠陥を治癒し、高品質な初期的情報開示によって買主の心証悪化を食い止められる可能性がある。時間を失い、大金を得る機会を失わないための必要な投資と考え、最小限の売却準備をすることは重要である。
▽就業規則・労働契約の整備:就業規則や労働契約が最新の法令に適合しているかを確認し、不備があれば改訂する。解雇や懲戒処分の規定が曖昧な場合は、具体的な基準を明記し、トラブルを未然に防ぐ。
▽未払賃金の清算:未払いの給与や残業代が存在しないか確認し、未払賃金がある場合は清算する等の対策を打っておく。
▽労働災害の防止と安全衛生体制の強化:労働災害が多発している企業は、M&Aで低評価となる可能性が高い。労働安全衛生法に基づく体制を整備し、安全対策を強化しておくことが重要である。