◆労働基準法は、労働者の最低限の労働条件を定めた法律である。労働者の人権や健康、安全を守ることを目的としており、企業は労働基準法を遵守しなければならないとされている。
◆労働基準法の主な規制内容は以下のとおり。
労働時間:
原則として1日8時間、週40時間が上限(法定労働時間)
残業を行う場合は、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要
休日・休暇:
週1回以上の休日の付与
年次有給休暇(年10日以上の付与義務)。
割増賃金:
残業手当(25%以上)、休日労働手当(35%以上)、深夜労働手当(25%以上)の支払い義務
解雇規制:
解雇には合理的な理由が必要で、30日前に予告を行うか、30日分の解雇予告手当が必要
労働契約の締結・変更:
労働条件を明示した労働契約書や雇用契約書の交付義務
【Plus】M&A売主が特に留意すべき規制内容
M&A会社売却時には、買主によるデュー・ディリジェンスによって、多額のキャッシュアウトや重大なレピュテーションリスクが懸念される事実が発見されると、売主が当初期待していた株式価値から大幅にディスカウントされてしまったり、最悪シナリオでは破談となる危険がある。特に以下の点に注意が必要である。
未払賃金:
過重労働やサービス残業が常態化していて、割増賃金等が不十分で後日請求されるリスク
過去3年(「当面の間」が経過した後は5年)遡った累積額(多額となる場合も)が請求されるリスク
固定残業代制度の不適切運用:
固定残業代に対応する時間以上の残業により割増賃金の支払義務が生ずるため未払賃金リスクは残る
不適切な労働契約:
労働契約書の未交付や内容の不備は、労働基準監督署による是正勧告リスク
契約更新のルールが曖昧な場合は、無期雇用に転換されるリスク
長時間労働の放置:
過労死ライン(月80時間以上の残業)を超える労働実態が露見すれば、社会的信用が低下するリスク
労働安全衛生法とも絡み、罰金等が膨らむリスク
労災:
労災に関する記録や対応履歴が不十分だと、安全管理体制が甘いと評価されるリスク
解雇手続きの不備:
不当解雇が行われている場合、労働審判や裁判で大きな金銭的負担が発生するリスク
「解雇しにくい企業体質」と認められれば、低い労働生産性が定着しやすいと見られるリスク
就業規則の不備:
就業規則が未作成、労基署に未届や法改正未対応の場合、法令違反となるリスク
【Plus】M&A会社売却の交渉でマイナス評価を避けるための準備内容
顧問社労士や優良なM&Aアドバイザーに作業協力してもらい、目的的に売却準備をすれば効率的となる。M&A会社売却での成功を目的とする以上、その目的に貢献しない、または、妨害するような作業をしてはいけない。そのため、M&Aに精通していない社労士等専門家の助言を丸飲みすべきではないケースも多い点、留意すべきである。
未払賃金の精算方法の検討:
まずは適切な勤怠管理システム等を導入し、労働時間の正確な管理を徹底して再発を防止
M&A成約予定日から遡って3年以内の未払賃金がある場合、精算方法を具体的に検討
(例えば、金額に重要性ないなら自主的に精算、重要性があれば買主と方針をすり合わせ)
就業規則の整備と改訂:
労働基準法改正に合わせ、就業規則を見直し、労働基準監督署へ適時に届け出
労働契約書の整備:
すべての労働者(正社員以外も含む)に対する労働条件通知書等の交付漏れがないか確認
契約の更新手続きや雇用形態が曖昧な場合、速やかに見直し
健康管理と労災対策:
定期健康診断を実施するなど、過重労働が疑われる従業員には産業医等による面談を実施
労災事故があった場合は、経緯や再発防止策を文書化
コンプライアンス教育:
管理職向けに、労働基準法遵守やハラスメント防止に関する教育を実施