◆LBOファイナンスとは、買主が対象企業の経営権を取得する際に、対象企業の将来キャッシュフローや保有資産のみを担保として株式取得資金をシニアローン(優先的に弁済されるローン)で調達する手法であり、通常、親会社保証や経営者保証が不要な非遡及型ローン(ノンリコースローン)を利用する点が特徴である。大型案件では複数行が参加するシンジケートローンとなるケースが多い。
◆通常、買主は特別目的会社(SPC)を設立し、SPCに自己資金を出資する一方で、LBOファイナンスを借り入れ、経営権取得の資金(買収資金)を確保する。取得後、SPCと対象企業を合併させる形で資金を効率的に運用できるようにするとともに、LBOレンダー(銀行等)は対象企業の資産に直接担保設定できるようになる。ただし、企業結合会計の関係等から合併を見送ったり延期するケースもある。

◆この手法は、経営権取得資金のかなりの部分を借入に頼るため、買主の手元資金の負担を軽減し、投資のテコの効果(レバレッジ効果)を高めるという買主にとってのメリットがある。また、買主の自己資金のみではなくLBOファイナンスも買収対価に含められることで売主にとっても高額売却しやすくなるという意味で大きなメリットがある。
◆一般的なコーポレートローンが親会社や経営者に保証義務がつく訴求型ローン(リコースローン)であるのに対し、LBOファイナンスはノンリコースローンである。これにより銀行にとっては回収不能リスクが高まる。そのリスクに応じ、LBOファイナンスの貸付金利は高めに設定され、返済期間やコベナンツなどの条件も厳格化される。
◆LBOファイナンスの基本的な仕組みは以下のとおりである。
▽オーダーメイド:LBOファイナンスは案件ごとに資本構成やリスクプロファイルが異なるため、オーダーメイド型のファイナンススキームが組まれる。銀行や投資家と協議しながら、最適なストラクチャーを設計する必要がある。
▽ストラクチャードファイナンス:一般的なコーポレートローンとは異なり、LBOファイナンスは高度に設計されたストラクチャードファイナンスの一種であり、担保や契約条件が複雑に組み合わさる。
▽ノンリコースローン:LBOローンは、対象企業のキャッシュフローや資産を担保にするため、原則として買主(PEファンドや投資家)に対する個人保証や親会社保証を求めない「ノンリコース・ファイナンス」となることが多い。これにより、買主のリスクが限定される。
◆銀行や投資家はLBOローンの与信審査を行う際、以下の点を重点的に評価する。
▽DSCR等の財務指標:対象企業のキャッシュフローと要回収額との比率(DSCR)等
▽事業の安定性と成長性:市場環境、競争優位性、事業の安定性、予定される施策の効果・コスト・リスク
▽PMI:PMIで予定されるトップ人事や組織の変更、シナジー実現施策の内容とコスト・リスクなど
▽対象企業の株式価値:M&A流通市場での対象企業株式の処分価値(株式担保価値評価)
▽買主の能力:買主のM&A実績(過去の類似案件での成功・失敗の履歴)
◆LBOローンの一般的な詳細条件は次のようになる。
▽手数料:LBOローンの組成には初期費用や継続費用がかかる。代表的な手数料は以下のとおり。
・アレンジメント・フィー:アレンジャーによる融資総額の引受け(全額実行)に対するフィー
・アップフロント・フィー:シンジケート参加銀行への初期的なリスク分析・融資事務に対する手数料
・エージェント・フィー:シンジケート参加銀行との調整を行うエージェント銀行に対する手数料
・コミットメント・フィー:融資枠(リボリビング・クレジット)のうちの未使用額に対する手数料
▽元本金額:LBOローンの元本金額は通常、対象企業のEBITDAの2〜4倍程度が目安として示されることもあるが、実際には、将来キャッシュフローのシナリオ分析を軸に詳細な分析を行った上で決定されるため、多少の変動がありうる。
M&A売主にとって、この金額が低ければ、買主がメザニンファイナンスで調達したり、エクイティ資金を追加できなければ、売却金額を引き下げなければならなくなるため、非常に重要な金額となる。高品質な初期的情報開示(事業計画書、財務モデルやインフォメーション・メモランダム等)やデュー・ディリジェンス開示資料が極めて重要となる。
▽ファシリティ:シニアローンの種類(シニアの中でのリスクの深さ)には以下のようなものがある。
・ターム・ローンA:5年前後の期限内に徐々に返済していくローン。アモチとも呼ばれる。
・ターム・ローンB:最終期限での一括弁済など、タームローンAよりも深いリスクを取る、トランチング(階層化)されたシニアローンの一部。一括弁済の場合はブレットとも呼ばれる。
・リボルビング・クレジット:買収完了時点に設定する借入可能枠。必要に応じて枠内であれば繰り返し利用できる。
・ブリッジ・ローン:短期間で弁済可能な買収資金の一部分を短期ローンとして借りる。
▽金利:LBOローンの金利は、コーポレートローンよりも高めに設定される。
変動金利:ベースレート + スプレッドの変動金利となることが多い。ベースレートにはTIBOR等が採用されることが多い。スプレッドはレバレッジ・レシオ(シニア借入額 ÷ EBITDA)やファシリティによって変動する。レバレッジが高いほど高く、ファシリティが深いほど高くなる。
▽弁済方法:大部分はキャッシュフローを原資に定期的に返済(タームローンA)するか、最終期限で一括弁済(タームローンB)する。
・約定弁済:ターム・ローンAを約定通りに弁済する方法。
・期限前弁済:金利コストやコベナンツ負担から早期解放されるため、通常、借主の任意で期限前弁済することも可能。
・強制期限前弁済:一定条件(想定以上の業績、固定資産売却額、保険金の受領やエクイティファイナンスによる余剰資金についてスイープ(上積みを吸い取る)される条件が付されることがある。
・バルーンペイメント:一定期間は金利等の少額のみを支払い、満期時に元本一括(又は大部分)返済
▽担保:事業キャッシュフローを最重視するLBOファイナンスであるが、担保も重要である。
・固定資産:不動産、設備などの固定資産がある場合、担保権を設定することで、大きめの元本金額で融資を実行しやすい。
・株式担保:通常、株式質によって(不動産など限定されない)全資産担保の実行力を確保することが多い。
▽保証:LBOローンは基本的にノンリコースだが、一部の融資ではスポンサー(PEファンド)や経営者の個人保証を求める場合もある
【Plus】経営者「安定と成長」 vs オーナー「売却額」
経営権取得後、LBOファイナンスの元本返済および利払いは、対象企業のフリーキャッシュフローを原資に行うことが基本となる。過剰なレバレッジは将来的な返済能力を圧迫するため、慎重に返済計画を策定することが不可欠である。経営者を継続する売主は、できる限り安定と成長を両立できる事業計画を検討するとともに、レバレッジが過剰でないか、返済負担が重すぎて成長を阻害しないか、などについて数字と論理を用いて検討した上で、買主を通じて銀行等と協議し返済期間や返済方法を調整すれば、無理なく魅力的な成長プランにまとめることができる場合がある。ただし、高額売却をしたいオーナーの視点からは、売却後の安定や成長を一定程度犠牲にする必要もある。全体としてのバランスが重要となる。
【Plus】関係者が求める安定と成長はそれぞれ(ポジションで変わる)
過剰な借入や無理な返済計画を立ててしまうと、対象企業の成長に必要な資金を返済に回さざるを得なくなり、「成長」が停滞するリスクがある。買主はエクイティホルダーであるから「成長」の恩恵を受けるが、銀行等LBOレンダーは受けないため、買主は「成長」と「安定」のバランス派、銀行等は「安定」最優先派になる。売主が経営者を継続し、かつ、株式の一部を保有継続し買主と一緒に売却する2段階売却を計画している場合、売主と買主は同じ舟に乗るため、いかに「成長」の機会を返済のために潰さないようにできるかが重要である。
【Plus】キャッシュを節約した成長の方法を模索(大型一発投資は避ける)
つまり、いかにキャッシュを使わず成長の種を育てるかである。現代のVUCA時代における事業の成功パターンと親和性が高いため、既存事業では安定重視の戦略(コーゼーション等)によって固く回し、一方、新規事業の開発や既存事業のアレンジでは、小さく試行を重ねうまくいったら大きく育てる戦略(エフェクチュエーション等)によって低リスク高リターンを目指す、といった経営の仕組みを工夫することも1つのアイデアになる。実は、工夫さえすれば安価で情報やアイデアが手に入る現代は、LBOファイナンスを抱えながらの成長戦略と相性がよいのである。銀行等に数字と論理で成長機会を説明できるようになれば、コストはかかるがリファイナンス(返済条件等を変更した借換え)を依頼する方法もある。他の銀行等も交えてリファイナンスの交渉をすれば、成長と安定を完全に両立できる財務リストラクチャリングを実現できるであろう。
【Plus】LBOファイナンスは売主の売却額の押し上げツールになる
効率重視のビジネスブローカーは、ほぼ全ての案件が零細案件であるため、仮にLBOファイナンスを組める中堅中小M&A案件を仲介する機会を得ても、難解で手間のかかるLBOファイナンスを敬遠することがある。LBOファイナンスのリスク面だけ強調し、楽に成約できる方法(安売り)に売主を誘導したがるわけである。適切に活用することで有利な結果を得られるツールである以上、クライアント利益を重視するなら真剣に検討すべきものである。デフォルトリスクが低く、安定したキャッシュフローを生む事業と評価されれば、銀行等から有利な条件でLBOファイナンスを引き出せるだけでなく、EBITDA倍率の向上や株式価値の向上も期待できるからである。
【Plus】ステープル・ファイナンス(事前準備型LBOファイナンス)
売主は、事前に親密銀行等と協議し、買主から提案が来る前に「この条件でこの銀行からLBOファイナンスを引き出せます」という体制を整える方法がある。このような準備を「ステープル・ファイナンス」と呼び、買主の初期提案に含めることで「買収資金調達の手間も省いてあげた。安売りするつもりは毛頭ない」という強いメッセージを送ることができる。
【Plus】LBOでの多額融資成功のカギもやはり情報開示の品質
売主は優良M&Aアドバイザーを活用して、LBOファイナンスにも対応できる高品質な初期的開示情報を準備することが勝利のカギとなる。買主や銀行等に対して信頼性の高いインフォメーション・メモランダムを提供することが、そのために情報管理体制を整備するなどの売却準備が、交渉をスムーズに進めるカギとなるのである。