◆リードユーザー理論とは、エリック・フォン・ヒッペル(Eric von Hippel)によって提唱された理論であり、革新的な製品やサービスの開発において、企業の商品開発担当者や一般ユーザーより先に「気づき」(ニーズ(欲求)やペイン(苦痛)を認識しソリューション(解決策)を考案)を探してくれる「リードユーザー」に焦点を当てる手法である。飽和社会において主導権が顧客に移っていること、供給企業の限られた開発人材では「気づき」に限界があること、を表しているとも言える。
◆リードユーザーは「認知能力や言語化能力に優れた顧客」と言え、新トレンドや潜在需要を予見し、企業が市場に投入すべきイノベーションを提案する能力を持つため、企業にとって重要な役割を果たす。リードユーザーを集めてプールし、事あるごとに協力してもらえる関係を構築しておくと、非常に費用対効果に優れたプロダクト改善ツールとなる。
【Plus】リードユーザーは、企業にとって価値のあるアイデアの源泉となるため、発見したら味方につける仕組みがあると良い。顧客を集めるイベント等を開催する企業でない限り、顧客とのアクセスポイントは、販売部門やカスタマーサービス部門等の流れ作業的な部門に限られる。そこで「クレーマー」として処理してしまうと、リードユーザーは日の目を見ることなく埋没してしまう。クレーム処理からリードユーザーとして引き上げ、イノベーションに繋げることが、リードユーザー理論の効率的な運用方法である。固定給の従業員にとっては「理屈っぽいうるさい客」であり埋没処理したくなるのも無理はない。経営側からなんらかの工夫が求められる。
【Plus】M&A売主は、対象企業を通じ、M&A交渉が始まる前に、製品やサービスの改善できる可能性を整理し、時間を含む予算上可能な範囲で実際に改善し、さらに可能なら実際にテスト販売してみると良い。リードユーザープールとそれを活用した財務的成果があれば、今後も企業価値を高められるという主張の合理的な根拠となる。M&A買主による対象企業に対する評価の向上が期待できる。
【Plus】リードユーザーから得たフィードバックや、それを基に改善した製品やサービスの実績を開示すべきである。「伝わらなければ無いのと同じ」扱いになりかねない。特に、リードユーザーとの共同開発プロジェクトの進展や、それにより得られた新しい収益源について透明性を持って説明することで、M&A買主は、企業価値の堅牢性を認識する。ディールブレイク後の引き抜きが懸念されるなら、個人を特定できる情報はマスク(塗り潰し)しておくデータ処理は不可欠である。
【Plus】M&Aの買主側から見ると、対象企業にリードユーザーを活用した共同開発体制が整っていれば、シナジー効果への期待がさらに増大する。買主企業の商品について対象企業のリードユーザーを活用したり、買主企業側のリードユーザーを対象企業の商品で活用するなど、リードユーザー理論を両社で交錯させる手法も期待できる。