◆直近12か月実績とは、M&Aの開示資料内において、対象企業の財務成績を、直近月末までの12か月間で表した実績の計測期間の一種である。直近の年間実績を示す計測期間であるため、着地見通しや翌期計画値と並び最も重視されることが多い。LTMと略して使用される。
◆LTMは、フロー系財務指標(PL関連、EBITDAやフリーキャッシュフロー等)について適用される。
◆例えば、3月末が決算期末の対象企業について、M&A開示資料を買主候補に提示するタイミングが9月であって、対象企業の財務成果が7月末まで判明しているとすると、LTMは「前期の8月から進行期の7月までの12か月間」となる。つまり、前期8月から進行期7月までのフロー系財務指標をを用意する。

◆LTMのフロー系財務指標の計算方法は、以下の2種類がある。月次実績を12か月分合算するか、累計値を用意して加減するか、である。いずれにせよ、月次決算の決算処理が、年度決算のそれとどの程度乖離しているか、が重要である。乖離が大きい場合、年度決算処理に近づけるため追加的な負担が重いと感じてしまう。

◆M&A交渉は、一回の情報開示だけで済むことはほとんどない。もし売主が「好条件で売却したい」「こだわりの条件を飲んでもらいたい」と思えば、その相手からすれば重い負担を覚悟し、失敗リスクに敏感にならざるをえない。もちろん、それで良い、それが当然なのであるが、そうなると交渉はハードで長期化しやすくなる。時間が経過すれば「直近実績を再度提示してほしい」と買主サイドからリクエストが来ることもあるし、「事業計画値を上振れしている場合など、アピールしたい売主サイドから積極的に開示する」こともあるだろう。例えば、さきほどの計算例は現在が9月だったが、時間が経過して翌年2月になっているとしたら、LTMの期間を、判明している12月末までの12か月とずらして、財務指標を開示することになる。

【Plus】買主から情報管理体制を評価される
バリュエーション上、フリーキャッシュフローが重要な場合、直近月末及び前期同月末のストック系財務指標(BS関連、オフバランス情報等)も算定して開示することもあるが、少なくとも直近月末のストック系財務指標だけでも正確かつ迅速に開示すべきである。「正確かつ迅速に開示できない」と買主に評価されると、情報管理体制を整備するためのコストを名目に、大幅な価格ディスカウントを最後の最後で提示されてしまうリスクがあるからである。現場主義の創業オーナーからすると些末な事に思えるかもしれないが、組織的かつステークホルダーの多い買主からすると重大事項なのである。ときに破談もありうるレベルである。実際、バックオフィスがボロボロの会社を買収すると、その後が非常に大変である。
【Plus】バックオフィス整備は、オーナー売上(株式売却対価)の必要コスト
「売主オーナーの売上は株式売却対価であって、そのための必要コストが情報管理体制の整備コストなのである」「M&Aの時だけは、社長ではなくオーナーとして自分の立場を切り替えるべき」と考えると腹落ちしやすいのではないだろうか。IPOの準備と非常に似ているのである。必要に応じ、売却準備の項目に加えて「やればできる事務作業」や「必要最低限のシステム対応」をすればよいだけである。自分でやれば数十万数百万で済むのに、他人にやってもらうと数千万円数億円も請求される。BtoBビジネスあるあるであるが、M&Aは特殊なシチュエーションで、お金を出す買主が強くなりがちなのでその差(マージン)が大きくなる。買主からすれば、売主が上場企業や投資ファンドの内情を詳しく知らない、という情報の非対称性を使えるチャンスなのである。