◆LTVは、顧客が生涯をかけて企業にもたらす利益の累積値を示す指標である。本来あるべき厳密な概念は、「顧客が初めて購入してから最後に購入するまでの間に、企業に対して支払う金額から、原価相当を差し引き、さらに、顧客を獲得・維持するためのコストを差し引いたもの」を指す。
◆LTVは、マーケティングや経営戦略において重要な指標であり、顧客の価値を長期的な視点で評価する際に活用される。LTVを企業全体で把握する際、上記の1人当たりのLTVに離脱率(解約率)を加味する方法もある。
【Plus】通常のLTVは「企業視点のLTV」である。顧客視点が欠けた状態でLTV最大化に突進してしまうと、皮肉なことに競合他社に最重要顧客(ロイヤルカスタマー)を奪われるリスクを内包している。より高単価、より高頻度に購入させることでLTVは上昇するため、真面目な現場がそれを押し付け過ぎるのである。当然、顧客から「鬱陶しい」「買うのやめよう」と思われてしまうわけである。
【Plus】この点、「顧客視点のLTV」も重要である。「顧客がある商品を使い続ける場合の生涯の満足度」を意味する。さまざまな類似商品について、もし自分が使った場合の生涯満足度を比較し、顧客は消費を選択するという考え方である。常に「顧客視点のLTV」や「自社商品と競合商品の満足度の違い」を比較しながら施策を練ることで、LTV(顧客当たり累積利益)と長期継続顧客数(リピート客)を同時に最大化でき、結果、企業価値を向上させることができる。特に高額な商品やサービスを扱う場合、消費者は慎重に選択するであろうから、「顧客視点のLTV」の重要性は高くなる。
【Plus】簡易的に支払総額(売上高)のみ(コストを無視)でLTVを算出するケースもある。コストを全く考慮しない以上、「企業価値を下げながらLTVを増加させる施策」が選択されてしまいかねないため、有害となるリスクもある。データ処理を大幅に減らせるため、マーケティングコンサルタントが使用したがるため普及している。できるだけ顧客別の売上データのみならず、顧客別のマーケティング・販促コストのデータを整備しておく(つまり、新規獲得時のマーケティング施策ごとに顧客をヴィンテージ(年月)管理し、購入単価、購入頻度、継続期間、解約状況をフォローできるデータ管理状態にしておき、いつでも「どの顧客獲得施策が高いLTV顧客の獲得に貢献したか」「本当に企業価値に貢献し、一定数存在するロイヤルカスタマーとはどのような顧客か」を把握できるデータ管理状態にしておく)ことが望ましい。
【Plus】精緻なLTVを把握していれば、これに顧客数を乗ずることで、事業価値に近い数値を把握できる。つまり、原価、顧客獲得維持コストや解約率なども考慮したLTVは、売上、原価、販売費の概念を包含している。あとは管理費や税金を考慮すればよい。厳密には、時間コストなど解約以外の事業リスクを加味すべきだが、凡その事業価値は簡単な計算で把握できる。経営者としては「手触り感のある数値」となるため、M&A交渉において、自信をもって主張する際の「支柱」となる。
【Plus】LTV重視マーケティングによって成功した事例としては、以下が有名である。
携帯キャリア:顧客が長く留まるよう、通信プランの他に、エンターテイメントサービス、カードサービス、金融サービスなどを提供し、エコシステムを構築している。家族など割引制度もLTVを高めている。
カルビー:消費者の嗜好を分析し、定番人気商品の新フレーバーや期間限定商品を定期的に発売することで、消費者を飽きさせず、LTVを高めることに成功している。
Netflix:解約率(チャーンレート)を低く維持するため、顧客個人々々の嗜好を分析し、コンテンツをレコメンド(推薦)する仕組みを採用している。Netflixは月額定額料金であるため、既存顧客の嗜好を反映した独自コンテンツを使った新規顧客獲得と、嗜好に合ったコンテンツのレコメンドによる解約防止によって企業価値を高めるのが基本となる(広告収入と選択制低料金の仕組みを除く)。
Amazon:プライム会員プログラムを低料金に設定し、長期的な顧客関係を構築することを重視している。プライム会員限定のサービスを提供し、より長くAmazonを利用するよう促している。
【Plus】M&Aの際にもLTVは重要な指標となる。M&A売主は、企業の顧客基盤が長期的にどれだけの価値をもたらすかを示すため、LTVのデータを開示し、M&A買主に対してその価値を説明することで、企業価値の評価を高めることができる。M&A買主にとっても、LTVを評価することで、対象企業の顧客基盤の質や、将来的な収益性を予測しやすくなり、PMIやシナジー戦略を立てやすくなる。