◆M&Aアドバイザー、特に「優良なM&Aアドバイザー」とは、M&A業者、つまり「M&A取引の実現のため相手を探し成約を目指す職業人」のうち「必要な要件を充足していてビジネスブローカーではない人」と本サイトでは定義している。
◆M&A業者には色々な呼び方があるが、この分類が先進国のノーマルでもある。M&A業者を[1.優良なM&Aアドバイザー]、[2.優良なビジネスブローカー]および[3.悪質・無能なビジネスブローカー]の3種類に分類するとわかりやすい。大企業M&Aまたは中堅中小M&A案件なら[1.優良なM&Aアドバイザー]、中小BB案件または零細BB案件なら[2.優良なビジネスブローカー]で相性の良い人を探せばよく、名前が有名だろうが知り合いの紹介だろうが[3.悪質・無能なビジネスブローカー]には決して近づかないことが、売主の人生と財産を守るために重要である。
◆「欧米で発達したM&Aアドバイザーの源流」は、「IPOでの幹事証券会社もしくはIPOコンサルタント」である。引受け業務等での違いはあるが、根幹となる業務内容や報酬体系は非常に似ている。1社ごとに丁寧に上場に向けてサポートするビジネスである。一方、「日本独自のビジネスブローカーの源流」は、マンション売買仲介、人材派遣・紹介、投資等の勧誘テレアポ、保険営業、フリマアプリなどの「開拓マッチングビジネス」にある。中身は気にせず大量トライで確率的に成功すればよい、というビジネスである。
◆金融リテラシーが欧米ほどではなく、高度専門サービスに十分な報酬を払わない慣習が、低料金タイプのビジネスブローカーを短期間で急成長させ、本来のM&Aアドバイザーの存在感を薄めてしまった土壌と言える。結果として「零細企業を安くても現金化できる、経営者保証から解放させてくれる環境」が整備された一方、「優良な中堅中小企業が法外な安値で売却されるリスク」「詐欺的な被害に遭うリスク」にもなっている。後者(ビジネスブローカー)が前者(M&Aアドバイザー)のふりをしているので、そうなって当然と言えば当然である。

◆M&A市場とビジネスブローカレッジ(BB)市場は、似ているようで大きく異なる。M&A市場で売主に有益なのは「優良なM&Aアドバイザー」である。利益相反関係を伴う売主と買主の「いずれか一方」をクライアントとし、自ら利益相反に加担又は加速させることはない。クライアント利益最大化のため必要な、事業、金融、財務、税務、法務、人事、IT及びESG等多様なフィールドについて、専門的な助言(調査・分析・実行支援にとどまらず、クライアントに有利な環境を用意する行為も含まれる)を提供する。優良M&Aアドバイザー5要件を充足していれば優良なM&Aアドバイザー、そうでなければビジネスブローカーである。

◆M&Aアドバイザーは、財務アドバイザー(セルサイドFAとバイサイドFA)がメインプレイヤーである。M&A最終契約に関与する法務アドバイザー(セルサイドLAとバイサイドLA)も併せて「M&Aアドバイザー」と呼ぶケースも多い(最少チーム編成は、「売主とセルサイドFA(LA機能付き)」対「買主(FA機能自己処理)とバイサイドLA及びDDプロバイダー」での交渉となる)。「お金のプロのFA」と「ルールのプロのLA」がセットとなってM&Aアドバイザーとして完成するというわけである。特に、中堅中小M&A市場では、売主と対象企業が軸になる「セルサイドスタート」が多数を占めるため、「対象企業の経営権を売買する取引市場の役割を担うセルサイドFA」が最も重要となる。
【Plus】M&A業者選びで価格が(根本的に)変わる
あえてM&A売主向けに単純に言えば「同じ対象企業の売却案件でも、M&A業者が違うだけで売却額が変わる」ということである。様々な要因が挙げられるが、主要因の1つ「対象企業が、ユニークな強みを持つ中堅中小企業かどうか」で考えてみる。ユニークさとは諸刃の剣であり、非常に高く売れる可能性もあるが、安くしないと(しても)売れないリスクもある。
ユニークな強みのある中堅中小企業をM&A会社売却する場合、下のグラフのような価格差(数倍程度)になることが珍しくない。売却準備が十分か(ポテンシャルを実績に反映し、治癒可能な欠陥を放置しておらず、シナジー効果やディスカウントといった価格変動要素に適切な対策をしているか)によっても大きく変わる。
また、未経験者による効率大量処理のため日本のビジネスブローカーが開発した年買法は、対象企業のユニークな強みなどの定性的な要素を一切無視し、画一処理できるようにしたものである。健全で将来性のある面白い企業であるほど、年買法等のビジネスブローカー価格で評価されてしまえば、買主にとってはノーリスク・ハイリターンのお宝買収案件となる。売主はM&Aバリュエーションに詳しくないのが普通であるから、買主に億円単位の高額寄付をしていることに気づきもしない。

【Plus】セルサイドFAは「起業経験」と「最短7年のM&A助言経験」を持っていることが望ましい
M&AアドバイザーのうちセルサイドFAは「対象企業の売買市場そのもの」になる存在であり、「売主と共感できること」が望まれる立場であるため、「起業経験を持っていること」が推奨される。加え、金融、財務、税務等の専門フィールドの知識、M&A取引やM&Aファイナンスの実務経験が必要とされる。通常、先進国では最短7年のM&A経験(BB経験は除く)を持つ人を案件担当者に据える事が推奨される。
【Plus】独自のサービスを付加できるM&Aアドバイザーを活用する
業種特化支援サービス、片手報酬支援特化サービス、セルサイド支援特化サービス、コンサルティング同時提供サービス、M&A後アフターサービスなどの付加サービスを売主に提供するM&Aアドバイザーも存在する。売主のニーズや対象企業の状況にフィットするなら、積極的に検討するとよい。
【Plus】問題のある付加サービスもある
支払能力の高い買主に様々なサービスを提供する問題のあるビジネスブローカーは多い。対象企業の問題を独立的な立場から指摘すべきバイサイドDDサービスを同時提供し、問題点を過剰アピールして買主利益を支援したり、問題点をあえて見逃して成約確率だけ上げようとするビジネスブローカーなどは悪質なビジネスブローカーと分類すべきである。零細規模で問題だらけの対象企業を個人投資家や中小零細企業に売りつけ、買収後に困ったらPMI支援サービスを買主に売りつつ、借入金の経営者保証外しは他人事のM&A業者も悪質なビジネスブローカーである。表面的な言い逃れ「この案件では片手報酬で健全なFAですから安心してください」は関係ない。一度でもドラッグ(両手報酬&無責任)に手を出したらどうなるか、である。
【Plus】欧米先進国では起きないことが日本では起きている
日本の中堅中小M&Aでは、ビジネスブローカー(≒M&A仲介業者)が関与するケースも多いため、問題が起きやすい。M&A先進国では、ビジネスブローカーはレストラン数店舗(≒不動産+α)などの個人事業レベルの売買仲介に限定され、中堅中小M&A案件や大企業M&A案件ではM&Aアドバイザー(≒財務アドバイザー(FA))が担当し、ビジネスブローカーの出る幕はない。
【Plus】M&Aは数や量では解決できない
M&A業者を選ぶ際、「人数が多い会社の方が安心」と考えるオーナー売主は多いと思われる。「うちにはあらゆる専門家が在籍してるので、すべてに対応できます!」と言われれば「確かに」と考えるのも無理はない。
しかし、M&A助言サービスは、極めて多岐に亘る領域について、高度に専門的で、実際に有益な助言を、経営者や会社オーナーという「その道のプロ」にリアルタイム提供するサービスである。また、M&A助言サービスは、クライアントのエージェントとして、相手方から投げられる広範かつ専門的な質問にリアルタイムで説明しないと余計な誤解が残って独り歩きする。いちいち「持ち帰って検討します」は通用しない。チャンスを棒に振る。
本当に優秀なプログラマーは200人の平凡なプログラマーに匹敵するという。M&A助言もそれに近い。M&Aは量より質である。巨大案件を担当する外資系投資銀行でも人数は少ない。質を追う方がパフォーマンスが良い、質の低い人間が混じると邪魔になるからである。
【Plus】極論すればM&A助言サービスは「1on1サービス」に行き着く
複雑でタイミングが大事な仕事は、コミュニケーションまで複雑にすると破綻する。中堅中小M&Aまでなら、少数精鋭で、諸々ぴったりフィットの会社を選ぶべきである。大企業M&Aなら、少数精鋭をコアに大人数メンバーをうまくマネジメントできる会社を選ぶべきである。
「うちにはあらゆる専門家が在籍してるので(自分にはわからないこともありますが。。)」という会社に依頼すると、理解できない相談できない無能ビジネスブローカーが担当者になるリスクが高い。契約を打ち切りたくても違約金やペナルティが、というリスクでもある。「お前はプロなんだよな。お前が全部理解して、お前が全部処理できないとダメだろう。」という感覚で正解である。
少数精鋭体制のブティックタイプのM&Aハウスの方が、必ずエースクラスが担当者になってくれるので逆に安心なのである。100人のビジネスブローカーより、1人の本当に信頼でき腕の立つM&Aアドバイザーの方が実際に役立つ。「困難を乗り越えるアイデア」は、1人と1人がしっかり相談する中で浮かんでくるものである。中堅中小M&A案件の場合、凄腕FA1人が中心となり、LA1人+スタッフ1~2人で脇を固めるくらいがちょうど完璧である。
【Plus】BBは、零細企業を中小企業に買ってもらうので質より数の勝負。
ただし、BB売主がBB会社を選ぶ場合には逆転する。最低限の規律を守ってくれて、せめて事業内容は正確に理解し、せめて簿記2級くらい合格し財務諸表を読める人が担当者になってくれるなら、人数が多い会社の方がよい。そもそもBB買主候補を無名の零細企業や中小企業から探すしかなく、人海戦術(テレアポ・DM等)で探索するしか方法がないからである。
ただし、人数が多い以上、BB会社は常時多額の運転資金を必要とする。「甘い誘惑に負ける動機」が常に転がっているのである。本当に規律を守れるか、最低限の能力があるか、色々な角度から質問し、その回答や態度を見て、慎重に吟味すべきである。
「一見安心そうなM&A仲介会社だと思った。政府のガイドラインも遵守している。それなのに、ちょっと調査してみたら信じられない事件に関与していた」はよくある話である。つらい話だが、M&A業者選びも、買主や条件に関する決断も、売主の「自己責任(ろくに調べずに都合のよい話に乗せられた方が悪い)」である。