◆M&A仲介契約とは、FA契約を模し「利益相反を禁止する条項」を削除した契約である。契約項目や文言はFA契約と酷似しているが、提供サービスの範囲や品質は全く異なり、しかし、報酬はFA用の料率テーブル(レーマン料率)を適用している点でアンバランスな契約と言える。過大な最低成功報酬や中間報酬、過保護なテール条項など売主にとって酷な条項が加えられることも多い。そもそもBB案件のマッチングだけなら両手報酬な上での数千万円の最低成功報酬は過大である(高額サラリー、短期上場が可能になっている理由である)。
投資銀行でのM&Aサービスが発展したのは欧米先進国であり、英米法ベースのFA契約が日本に輸入され、現地化がされ今に至っている。この現地化の中で、FAが他の専門家(弁護士等)同様に遵守すべき職業倫理「利益相反の禁止」を削除し「売主と買主の中間、公平中立な立場からの仲介サービス契約」という欧米人には意味不明な契約が発明された。これは、当時「対等の合併」が主流であった日本の大企業同士のM&Aにおいて、双方の主張(主に社名、人事やシステム)に耳を傾け、妥協点を模索する役割が求められていたという背景がある。会計基準が歪み(日本独自の持分プーリング法)、FA契約も歪んだ(日本独自のM&A仲介契約)わけである。その後、団塊世代の引退に伴う事業承継問題の大量発生を機に、FAサービスを提供していた投資銀行、証券会社等では扱えない小規模売却案件が大量発生し、このニーズを取り込むために、別の理由(小規模案件での採算性確保)によって、法が原則禁ずる双方代理構造を許容しているのが、今の中小零細案件用のM&A仲介契約である。
【Plus】中堅中小サイズ以上なら、常時FA一択
そもそも零細案件だと採算がとりにくいという理由で、法律が禁止する利益相反を例外的に許容していたはずである。中堅中小サイズ以上なら、本来あるべきFAが担当してくれるはずである。ところでFAという2文字を巧妙に使って無能BB業者の実態を隠す業者も増えている。選ぶべきFAは「常時FA」である。M&A仲介(原理的に違法業者)とFA(適法業者)を併記する業者というのも、欧米人には意味がわからない。
【Plus】悪質業者を避けるべき理由
M&A取引の関係者の中で、通常もっとも情報弱者になるのがM&A初心者の売主である。情報弱者を食い物にするというのが悪質商法のセオリーである。そもそも売主を「獲物」として捉えており、いかに効率的に「売らさせるか」が最重要であり、そのため必死に認知獲得競争(TVCM、雑誌広告、新聞広告、DM、テレアポ、問い合わせメール等)に勤しむ。一方で、肝心要のサービス品質は、コストがかかるので極力削る努力もしている。悪質業者が大事にするのはお金の出所の買主である。買主が迅速に買収できるよう売主をいかに誘導するか、安値誘導に成功したときのご褒美をどうやっても貰うかが勝負となる。また、中には売れ残り零細案件を脱サラ個人に売りつける詐欺的なM&A商法もある。これもいかに効率化するかなので、DDもさせずM&A保険で代替させたりする。こうなると、どっちも情報弱者なのでやりたい放題となる。いずれにしても「自分の利益しか考えない詐欺的な業者」に大事な会社売却を相談すべきではない。実際に悪質BB業者(表面的にはクリーンなイメージのあるM&A仲介業者)で働いた事のある人に聞いた話では、オレオレ詐欺との違いがわからなかった、とのことである。
【Plus】無能業者を避けるべき理由
そこまで悪質な意図はなくとも、能力が根本的に足りない無能な自称プロが中小零細市場で大量増殖している。業務内容が狭い(実質マッチングだけ)、業務品質が低い(チャンスに気づかず、落とし穴にも気づかない、クリエイティブに壁を乗り越えるアイデアを考えられない)M&A仲介業者と契約してしまうと、売主が本来得るべき果実の多くが鞘抜き目当ての買主に移転してしまったり、本来引き継ぐべきでない買主に売却してしまったりと、さまざまな問題が生ずるリスクが生じる。一部の買主から聞くのは「M&A仲介の兄ちゃんが愛おしい」「無邪気にぼろ儲け話を足しげく持参してくれる」である。もし、どうしてもM&A仲介業者と契約したいなら、契約前に入念に「案件担当者」の職業倫理や能力レベルを確認すべきである。出身企業の名前の大きさは関係ない。有名な証券だろうが、投資銀行だろうが、総合商社だろうが、関係ない。経験してきたジョブ(職務)とトラックレコ―ド(実績)で判断するのが鉄則である。日本人は「会社名」で人を判断する変なクセがあるので要注意である。
【Plus】無料リスクを避けるべき理由
タダより高いモノはない。売主無料業者(M&A仲介業者と名乗ったり、バイサイドFAと名乗ることもある)と契約してしまうと、売主が被害を受けるリスク(買主利益に誘導される等)を高め、受けた被害(過小評価での売却や売却後トラブルや解約もできず廃業する等)を回復することも困難となるため、慎重に判断すべきである。これを「売主ホイホイ」と呼ぶ人もいる。無料にしているのは必ず理由がある。この世の誰が、旨味もないのに無料サービスに誘導するためにお金を払って広告を打つのか。無料の恩恵を受ける売主にとって、恩恵の何十倍ものダメージが待っていると考えておくべきである。
【Plus】M&A会社売却でいきなり失敗しないために
「早い安い楽ちんのFA」「安心の買い手FAなので売り手様は●●報酬が無料」などと巧妙にオーナー社長に近づいてくるが、その実態は「売らさせ屋」の「自分の利益(を長期的に増やす買主の利益)しか考えない悪質・無能なビジネスブローカー(BB業者)」の可能性がある。彼らの儲けの源泉は「本来売主が受け取るべき売却対価」である。困ったことに「被害に遭った事に気づきにくい」点も問題が一向になくならない一因である。「本来受け取るべき売却対価」がいくらなのか、最後まで知らされない(BB業者も計算できない)のだから気づきようもないのである。保険料を計算できない保険セールスにうっかり高額保険を加入させられてしまうのと似ているが、被害額は桁が何個も違う。
このような悪質商法は、常に、情報弱者や目先の損失回避を好む人たちを狙う。「M&Aなんて他人事」という人が普通であるから、騙される人が多いのは仕方がない面もある。餌食にならないためには、必要な自己学習をして情報強者になるしかない。やってみれば意外と大した事はないはずである。悪質無能BB業者のレベルを抜けばよいだけだからである。
悪質無能BB業者では、ド素人を僅かな研修(もしくは無研修の学生や主婦パート)で「M&Aのプロ」と称しテレアポ稼働させているようである。その倍くらいの自己研修をしておけば「違和感に気づく能力」を手に入れられる。悪質無能なBB業者は、ちょっと専門性の高い事を質問されると「社内の専門家に聞いてきます」と逃げたり、練習してきた(よく聞くと中身がない)返答用のトークスクリプトを暗唱する。一方、優良なM&Aアドバイザーであれば、どんな領域の事でも質問されたその場で、意味のある助言ができるし、不明瞭な点があれば的確に質問してくるし、ケース毎の選択肢を示してくれる。実際に会ってみて、質問責めにすると、本物のFAか偽装FAかを見抜くことができるはずである。そのためにも、最低限のM&A自己学習をしておくことを強く推奨する。正しく質問できなければ真偽を見抜くことは不可能だからである。製造現場で使われる「なぜなぜ5回」はM&A業者選びでも使えるのである。