◆狭義の管理会計とは、主に、コスト削減や安定経営を目的として、企業内部の意思決定支援に用いられる会計手法である。経営者や部門責任者らが効率的かつ効果的な意思決定を行うために利用される。一般的に認識されている管理会計は、予実管理、資金繰り管理、原価計算や各種経営指標の算定評価という形態で活用されている。
◆デジタル技術の進展に伴い、あらゆる事業環境の状況や事業活動をデータとして記録・保管することが容易となっている。M&A売主にとって有益な管理会計(広義の管理会計)を定義すれば「財務会計のトレーサビリティ」と言い換えることが可能である。つまり、M&A交渉の基礎である外部報告の根拠データを整備し、将来の改善・成長・シナジーの可能性を売主及び買主が検討するためのデータを整備するプロセスと言える。これにはコスト方面だけではなくレベニュー方面も含まれる。
【Plus】会社を高く売りたいM&A売主にとって、財務会計へのレベルアップを容易にする売却準備は必要条件であり、管理会計の高度化は十分条件である。
【Plus】狭義の管理会計では、マーケティング分野等は対象外とされることが多く、レベニュー(売上)は経営者や販売部門の管轄として整理されることが多い。しかし、コスト削減以上にレベニュー維持・向上が課題となりやすい現代において、狭義の管理会計の役割は限定的なものになっている。一方、広義の管理会計には「事業領域の限界」はない。重要性に応じフレキシブルに管理すべき領域を設計すればよい。
【Plus】つまり、M&A売主は「M&A買主はブランド、顧客基盤や販売ノウハウが欲しいから多額のM&A投資を実行する」場合が多いという現実を認識し、「買主目線で重要な領域」については、社内の一部の人間だけしか理解できないような状況を放置せず、必要な範囲で広義の管理会計をブラッシュアップすべきである。M&Aを考え始めたら、速やかに管理会計のブラッシュアップを開始した方がよい。
【Plus】管理会計と財務会計が連絡していることも重要である。管理会計は財務会計の材料であり、管理会計の目的が財務会計である。両会計の連絡が機能していれば、買主の事業理解が深まり誤解に基づく過小評価を避けられるだけではなく、買主の全般的な安心感が倍増する。事業の実際の流れに沿って、関連データが整備され、それらの数値と財務会計の数値の関係を明示できれば、買主の疑心暗鬼を一気に払拭できるのである。