◆市場の失敗とは、市場メカニズムが効率的な資源配分を実現できず、社会全体の福利が最大化されない状況を指す。市場の失敗が発生すると、資源が適切に分配されず、社会的に望ましい結果が得られないことになる。市場の失敗の典型的な原因には以下のようなものがある。
外部性: 外部性とは、ある経済主体の行動が他の経済主体に影響を与え、その影響が市場価格に反映されない状況を指す。これにより、負の外部性では過剰な生産や消費が発生し、正の外部性では生産や消費が不足することがある。
公共財の供給不足: 公共財は、非排除性と非競合性を持つ財であり、一度提供されると全ての人が利用できる。市場は効率的に公共財を供給できないため、供給不足が生じることが多い。例としては、道路や治安などが挙げられる。
情報の非対称性: 市場において、取引の当事者の間で情報が不均衡に分配されている場合、効率的な取引が成立しない。これにより、買い手と売り手が不利益を被る可能性がある。例えば、売り手が財の品質に関する情報を隠していると、買い手は過剰に高い価格を支払ってしまうことがある。逆に、売り手が素人で買い手が玄人であって、売ろうとする財の真の評価を隠していると、売り手は過剰に低い価格しか受け取れない。
独占や寡占: 市場における競争が欠如し、少数の企業が市場を支配している場合、効率的な資源配分が妨げられ、価格が不当に高くなることがある。これは、市場の失敗を引き起こす原因の一つであり、消費者の選択肢が減少し、消費者の福利が低下する。
不完全競争: 競争が制限された市場で、企業が価格設定を操ることが可能になると、効率的な資源配分が実現しない。これは独占や寡占と関連しており、企業の利益追求が消費者の利益に反する場合がある。
市場の不安定性: 市場が突然のショックや変動に対して適切に調整できない場合、過剰な売買やバブルの発生、急激な崩壊といった問題が発生し、市場が失敗することがある。
◆市場の失敗が発生する主な原因を理解した上で、政府の介入が必要とされる場合がある。政府は、税制や規制、公共サービスの提供などを通じて市場の失敗を是正し、社会全体の効率性を高めることが求められる。
【Plus】経営者としてのリスクとチャンスには次のようなものがある。
短期的リスク: 市場の失敗が発生すると、事業環境が不安定になり、売上や利益が予測できなくなるリスクがある。特に、市場の不安定性や不完全競争が発生した場合、短期的に競争力が損なわれる可能性がある。
短期的チャンス: 市場の失敗が解消される場合(例えば、政府の介入や規制が有効に機能する場合)、企業は新たなビジネスチャンスを得ることができる。特に、公共財の提供や環境保護政策により新しい市場が生まれることがある。
長期的リスク: 長期的に市場の失敗が続くと、企業の経営環境が不安定になり、長期的な成長に悪影響を及ぼすリスクがある。また、市場の不安定性が引き起こす景気後退や規制強化が企業にとってのリスクとなる。
長期的チャンス: 市場の失敗を解消するために新しい技術やサービスが求められる場合、企業はイノベーションを通じて競争優位性を得るチャンスがある。例えば、環境問題に対応するための新しい技術や、公共財の効率的な提供が求められるケースである。
【Plus】オーナーとしての株式価値の視点からは、市場の失敗が企業価値に与える影響を注意深く監視する必要がある。市場が不安定な状態にあると、株式価値の変動が大きくなる可能性があり、特に情報の非対称性や独占的な状況が続くと株価に悪影響を与えることがある。一方で、政府の介入が適切に機能し、市場の失敗が解消されると、株式価値が向上する可能性がある。M&A会社売却の観点から見ると、情報の非対称性や不完全競争が売主不利に働きやすい仕組みがビジネスブローカレッジであるため、できるだけBB市場で売らず、M&A市場で売るべきである。