◆中央値とは、標本データを大小順に並べたときの真ん中の値である。データの数が偶数の場合は、中央にある2つの値の平均が中央値となる。中央値は外れ値(極端に大きい値や小さい値)の影響を受けにくく、標本データの分布を代表する指標として使われる。
◆一般的に標本データの代表値を算出する際には算術平均を使うことが多いが、算術平均との比較をすると、以下のようになる。
標本データ(1,2,3,4,5, 6, 7, 8, 9,10,100)の代表値は、以下の計算結果となり、外れ値が含まれると、大きな差が生まれる。
計算方法 | 特徴 | 計算結果 |
平均 | データの合計をデータ数で割った値。すべてのデータを平等に反映するが、外れ値に強く影響される。 | 14.27 |
中央値 | データの分布の中央を示すため、外れ値の影響を受けにくく、より実態に近い代表値となる。 | 6.0 |
【Plus】中央値が無意味な数字になるパターン
大きな間違いが起きる条件としては、以下を挙げられる。単に「中央値を使ったので合理的」とはならないため、使用する場合、計算結果に説明力がある状況かを確かめ、必要に応じ、各種統計手法を用いて、中央値の信頼性を証明する必要がある。
外れ値が多く正常値が少ない場合:データに極端な値が含まれていると、平均は過大または過小に評価されやすい。一方、中央値は外れ値を排除した実態を示す。しかし、外れ値を排除して残った正常値の標本数が極端に少なければ、中央値の信頼性は低くなる。
データの分布が歪んでいる場合:正規分布していないデータ(偏りのあるデータ)では、平均がデータの実態を反映しにくい。右に歪んだデータでは平均が上振れし、左に歪んだデータでは平均が下振れする。正規分布から外れている理由を把握し、その理由を排除する方法を模索すべきである。
サンプルサイズが小さい場合:中央値を使うことで偏りを減らせるが、やはり極端に小さなサンプルサイズの場合には代表性は低くなる。
【Plus】M&Aにおいて中央値が重要である場面
バリュエーション:例えば、EBITDA倍率法で、上場類似会社のEV/EBITDA倍率やPER(株価収益率)を参照する際、極端に高い/低いデータが混在することがある。分母の利益指標がギリギリ黒字や赤字であれば、分数である倍率指標は異常な値を示すためである。そこまで極端でなくとも、経常的とは言えない状況の上場類似会社を含めた標本データの代表値を算出する場合には、総合的な判断力が必要である。同様に、DCF法においても、割引率の算定においてβ値を参照する際、上場類似会社のβ値を複数社分用意した後で、対象企業に適用すべき代表値を算出する。株価が乱高下する銘柄や金融ショックによって株価が異常な動きをしていると、上場類似会社のβ値も異常値を示すため、極端な外れ値が登場することがよくある。各上場類似企業の事業の状況、財務情報、株価の状況等を詳細に理解した上で、信頼性の高い計算をすることで、買主を説得力しやすくなる。
デューデリジェンス(DD):例えば、ビジネスDDにおいて、過去の対象企業の事業関連データ等を用いて、競合比較、成長可能性評価、事業リスク評価を行う際、外れ値があると誤った評価が下されるリスクがある。売主が情報開示をする際には、情報受領者の利用目的を想定し、必要に応じ、背景等の関連情報まで詳細に説明しておくべきである。買主による誤った評価が売主有利に働くことは少ない。
後継経営者の役員報酬の評価:後継者がM&A成約時には見つかっていない場合も少なくない。売却価格の交渉段階で「後継者の役員報酬をいくらに設定すべきか」という問いに対し、売主も回答を用意しておくべきである。同業の標準的な水準を把握できれば、その金額をもって「引退予定役員の役員報酬が超過している金額」を合理的にEBITDAに加算調整できる。外れ値を含めた平均ではなく、中央値を基準に設定することで、説得力を備えやすい。例えば、EV/EBITDA倍率が10倍であれば、加算調整額が1,000万円増えると、株式評価額は1億円増える。面倒だから、優秀な買主に任せようと思ってはいけない。逆に2億円ディスカウントされてしまうからである。
オーナー資産の売却可能額の評価:例えば、M&A後、オーナー社長が引退する場合等、オーナーしか使用していない資産をオーナーが市場価格で買い取ることも多い。その代金は対象企業に支払われるため、バリュエーション時や価格交渉時において、資金繰りや必要な借入額を買主が把握するためにも、オーナー資産をいくらで評価するかを把握する必要が生じるケースがある。その場合、オーナー資産と類似する資産の市場価格をできるだけ多くサンプリングして、中央値を計算することで、説得力のある売却可能額の概算を把握することが可能となる。