◆合併とは、複数の法人が一つの法人に統合し、株主が統合後の会社の株主になるというM&Aスキームの一種である。吸収合併(会社法749条以下)と新設合併(会社法753条以下)の2つの形態があるが、さらに吸収合併を「順合併」と「逆さ合併」に分類し、3つの合併形態に整理することもできる。消滅会社に紐づく権利義務は存続会社に包括承継されるが、許認可は改めて取得する必要がある。また、税制適格要件(納税有無・時期・金額)や財務会計への影響(ディスクロージャーや融資機関の審査基準)への配慮も重要である。
◆日本では「買収された会社の人」と見られることへの拒絶反応が強い場合があり、対等合併が盛んに行われ、日本独自の会計処理(持分プーリング法)が適用できた時期もあった。しかし、統合効果が出にくかったり、会計のグローバル化の流れもあり、今では「株式価値の大きな会社が買主(取得企業)、株式価値の小さい会社が対象企業(被取得企業)」というグローバルスタンダード(パーチェス法、企業結合会計)が日本でも強制されている。交付される株式の数(=株式価値の大小)によって実質的な売買判定を行うということである。
◆合併3形態の違いを整理すると以下となる。頻繁に利用される2段階M&Aスキーム(株式譲渡→吸収合併)であれば、株式譲渡の段階の売主は、合併時にはB社(下図)の株式を売却した後であり、B社株式を全て売却しているか、一部だけ保有している状況である。つまり、B社の過半数を保有しているのはA社となっている。

▽ 吸収合併(順合併):順合併とは、株式価値が大きい存続会社が、株式価値が小さい消滅会社を吸収し、消滅会社の権利義務が存続会社に包括承継される合併形態を指す。
▽ 吸収合併(逆さ合併):逆さ合併とは、株式価値が小さい存続会社が、株式価値が大きい消滅会社を吸収し、消滅会社の権利義務が存続会社に包括承継される合併形態を指す。
▽ 新設合併:新設合併とは、複数の会社がすべて消滅し、新たに新設会社を設立して、それを新設承継会社(存続会社)とし、消滅会社の権利義務を包括承継する合併形態を指す。
【Plus】株式譲渡で売るだけ、ではない
対等合併の会計処理が許容されていた時代には、元々競合関係にあった大企業同士がいきなり合併を実施することが多かった。しかし、現在では、合併スキームはグループ企業の再編のために利用されるケースが大半である(対等な関係を内外に示したい場合、許認可問題の生じない株式移転スキームで実現できる)。既存のグループ会社同士を吸収合併させるケースも多いが、まず株式譲渡スキームによって買主企業が対象企業を子会社化し、その後で、対象企業を吸収合併によって合併する、という2ステップ統合を採用するケースも多い。
そのため、1ステップ目の株式譲渡スキームの対象企業の売主から見れば「自分が株式を売却した後で、買主企業が実施するPMIの一環としての吸収合併」という位置づけになることが多くなっている。会社を高く売りたい売主としては、買主が吸収合併を予定していることを把握し、吸収合併に支障のないようにしておくべきである。問題があれば、相応の価格ディスカウントをされやすい、という背景を知っておくことが重要である。
【Plus】合併の重要ポイント
事業運営の前提条件となる許認可等は確実に確保し、シナジー効果を確実に創出することがポイントとなる。当然のことながら、ポストが消滅する人たちが最大の障害となりうるため、慎重に入念な統合計画を練っておくことが重要となる。
▽リーダーシップ:最適なトップ人材を据え、統合後の目標設定とそのための資源再配置を、合理的・目的的に実施することが重要である。
▽消滅会社の許認可: 消滅会社が持つ許認可の主務官庁の取り扱いを事前に確認し、必要な手続きを行う。
▽組織人事: 両社統合状態での最適な人的組織体制を再設計し、重複する役員ポストや幹部ポスト等について、総合的に判断して時限的に消滅させていく等の合理化が必要となる。その際、再配置等での雇用継続によって従業員の士気を下げないよう工夫すべきである。一方、整理解雇が認められやすいタイミングでもあるため、余剰人材が蓄積していて、デメリットを管理できる場合には、根本的な人的資源の合理化を図るべきである。
▽ITシステム統合: ITシステムの統合計画を事前に策定し、データ移行や運用統合をスムーズに行う。経営層のITリテラシーが弱いケースも多く、見積もりが甘くなりやすい。早めに開発要件定義を詳細に詰めておかないと、修正に次ぐ修正で無駄かつ巨額な開発コストを支払うはめになる。それ以上に、統合効果が実現されるタイミングが年単位で遅延するリスクを負うべきではない。
▽取引条件:事業規模が大きくなるため、仕入先や取引先にボリュームディスカウント等を交渉しやすくなるし、得意先も従来より収益性の高い先を開拓したり、既存得意先との販売条件を改善しやすくなる。
▽金融取引:統合後の財務状態が明白に改善する場合、金融機関との取引条件を改善するチャンスとなる。逆に、財務状態や経営方針の内容が弱い、または説明が不十分だと、取引条件が悪化するリスクもある。
【Plus】逆さ合併を利用するシーンとは?
逆さ合併は、法的な関係と財務会計的な関係が逆転し、さまざまな局面で複雑な対応が必要となるが、次のようなメリットがある場合に採用されやすい。
▽投資ファンド:SPC(特別目的会社)が親会社、事業会社が子会社という状態から、逆さ合併を実施
▽許認可:株式価値の小さい会社に、再取得困難な重要な許認可がある場合に、逆さ合併を実施
▽繰越欠損金(NOL):株式価値の小さい会社に、大きな繰越欠損金(将来の節税効果)が残っていて、順合併では税制適格要件を満たせない場合に逆さ合併を実施
【Plus】合併会計のポイント
企業結合会計では、連結財務諸表上、次のような処理を行う。逆さ合併の場合、個別財務諸表と連結財務諸表で逆転する会計処理が必要となるため留意が必要。
・被取得企業(対象企業)の財産を時価評価
・取得対価と被取得企業の時価評価後の純資産の差額をのれん(または負ののれん)として認識
・のれんは毎期減損テストを実施し、問題なければ所定の年数にわたって償却する。負ののれんは一時の利益計上する。
【Plus】2ステップのB社の売主が優良なM&Aアドバイザーを起用する重要性
会社を高く売りたいM&A売主は、買主が予定するであろう合併等の多段階M&Aスキーム全体の手続きを把握し、事前に障害を取り除く等の売却準備や、透明性の高い高品質な情報開示をすることで、買主の心配を軽減する努力が必要不可欠である。単に成約させればよい(成約できなくても擦れればOK)というビジネスブローカーではなく、高く売りたい売主と同じ舟に乗る優良なM&Aアドバイザーを起用すべきである。いちいち別の専門家にお伺いをしなければ判断できないような担当者では、混乱や失敗は目に見えている。複雑情報を漏れなく正確に伝えることすら難しいからである。M&A案件では、「案件担当者が全方位で瞬時に役に立つかどうか」が非常に重要なのである。