◆ 月額支援報酬(リテイナー・フィー)とは、M&Aアドバイザー(FA)に対して、M&Aプロジェクト期間中、毎月継続して支払う報酬である。主にM&A案件が高度化・長期化する場合等、FAのモチベーション維持と継続的な高品質サポートを確保するために設定されることが多い。
【Plus】月額支援報酬と着手金等の他の報酬との関係
着手金は、案件スタート時点で支払うワンタイム報酬であり、リテイナー・フィーは、案件期間中継続的に支払う報酬である。両者は補完的な関係にあり、着手金を高く(低く)設定する場合、リテイナー・フィーが低く(高く)設定することが多い。着手金同様、その他の報酬(中間報酬、成功報酬)とも補完的な関係にあるため、業務範囲(スコープ)や案件難易度等を踏まえた全体的なバランスが重要となる。
先払い報酬(着手金・月額支援報酬・臨時報酬・中間報酬)を一切払わないで会社を売却できるケースがあるが、これは結局「何倍にも膨らんだ費用を後払いしている」ことになる。つまり「売却額が大幅に減っている」ということである。本来最低でも5億円(優良M&Aアドバイザーに依頼したら10億円までありうる)の会社を、費用を支払わずに売ったら3億円になる、ということである。成功報酬まで無料となれば、売却額は2億円にまで下がる。つまり「実質負担額は最大8億円(最高10億円 – 最低2億円)」ということである。せいぜい数百万円の先払い報酬で済んでいたはずなのに、である。弁護士に駆け込んでも「義務を負担しなかったのに、権利だけ主張している人」として扱われるだろう。これこそが「BB中抜きシステム」であり、悪質・無能ビジネスブローカーが急成長した原資であることは言うまでもない。金融リテラシーの高い経営者が多い欧米先進国で定着しているノーマル(セルサイドFAに着手金を払ってしっかり仕事してもらう)がとどのつまりは一番なのである。
【Plus】月額支援報酬とM&Aアドバイザーに依頼する業務範囲(スコープ)との関係
リテイナー・フィーは、FAが担当する業務範囲(スコープ)の広さや深さによって金額が変動する。セルサイドFAが、M&Aプロセスの前後(売却準備など)のサポートを含むケースもあるし、バイサイドFAが、M&Aプロセス後(PMI)のサポートを含むケースもある。これらの報酬は、一括で支払うよりも、月額支援報酬の形で設定する方が安心である。支援内容の範囲や品質は業者毎に千差万別であるため、高額な報酬を払えば必ずよりよいサービスを受けられるとは限らない。業務範囲(スコープ)を詳細にすり合わせ、期待できそうな貢献に応じてお互いが納得できるように取り決めるべきである。
一般に、M&A助言業務の業務範囲には、①M&A案件を兎にも角にも成立させるための業務と、②M&A案件の結果としてクライアント利益を大きくするための業務の2つが含まれる。片手報酬のFAは①・②ともに対応できるのが強みであり、担当するFAの能力次第で支援の範囲や品質が大きく変わってくるのが特徴である。一方、両手報酬のM&A仲介業者は、①に特化するのが通常であり、②については公平性が損なわれる(一方に肩入れすると他方から非難される※)ためメッセンジャーボーイとしての役割に留まる。②の業務は、時間と手間がかかるわりに儲からないためサービス提供するFAは限られるが、依頼したい場合、その難易度や負担に応じ、適切なリテイナー・フィーの支払いを検討すべきである。
※この点「業務の負担を避けるための詭弁」として使われることも多い。
両手報酬(利益相反リスク)だけでも売主にとって危険であるが、さらに着手金・月額支援報酬無料と最低成功報酬が揃うと、売主にとっての危険度はさらに高まる。
【Plus】リテイナー・フィーを支払うメリット
▽案件の優先度が上がる:FAがリソースをさらに集中しやすくなる。
▽長期案件でも手厚いサポートが継続:FAが途中で手を抜くリスクを軽減できる。
▽柔軟な戦略変更が可能:案件途中での大幅な戦略修正にも対応してもらいやすい。
【Plus】フィー泥棒を見抜く方法
上記のメリットは、表面的なものである。あってはならないことであるが、悪質業者の場合「頑張っているふり」をして着手金やリテイナー・フィーだけ奪おうとする業者も存在する。立派な大手M&A業者でも関係ない。担当者個人の職業倫理次第であるため、常にリスクがある(運次第)と言える。悪質業者の場合、会社の方針として「どんな会社でもM&Aのチャンスがあるかのように売り手を洗脳せよ」「まず成約できない案件でもとにかく売主を期待させて受注せよ」そして「着手金、月額報酬や情報提供料でとにかく売上を立てろ」という経営方針?を採用している所も多いようである。もちろん「頑張ってるふり」の「言い訳用のトークスクリプト」まで悪質業者が会社として用意してくれている。オレオレ詐欺と同類なのである。
現実的に努力している実態を確かめるには、資料を提出させるなり、定期的な打ち合わせで具体的な進捗を確認するなどが必要である。売主が、M&Aアドバイザーとの契約をする「前」に信頼できるか確認する手段としては、案件成功のために努力した成果物の共有についての義務を課すしかないだろう。契約書の中で明確に定め、これを怠った場合には契約解除できるとすれば(何もせず金だけ儲けることに尽力する業者は必死に抵抗するはずなので)悪質な業者を事前に排除できるだろう。
簡単なのはインフォメーション・メモランダム(IM)の品質をチェックすることである。
・市場・競争・事業・財務・税務・法務・IT等に関する調査分析をどの程度広く深く実施したか
・様々な関係者(買主のトップやCFOや事業責任者、DDプロバイダー、価値評価者など)向けに効果的なアピールをしているか
・買主サイドが保守的評価に偏らないようリスク要素への防御をしているか
・買主サイドのバリュエーションをより高く導くために財務モデルを構築して複数シナリオの事業計画を策定したり、シナジー効果を推計してもらうための事業関連(開発・製造・販売等)の詳細情報を整理しているか
・売主サイドの合理的なバリュエーション(DCF法やEBITDA倍率法等)を実施しているか
といった努力の成果を瞬時に確認できる。優良なM&AアドバイザーのIMは、マイノリティ投資家向けの上場会社ディスクローズ資料よりも高品質な「大金をマジョリティ投資家から引き出すためのエッセンスが詰まった資料」であるが、悪質・無能なビジネスブローカーのIMは、コピペで作ったことが一目瞭然の「中身のない資料」または「それすら作ってない(1ページの企業概要書のみ)」となる。