◆NOPLATとは、企業の事業活動から生み出される営業利益から、調整後の税金を控除して算出される財務指標である。「調整税額控除後営業利益」と言うより「本業から生まれた税引き後の事業純利益」という名称の方が誤解が少ないかもしれない。NOPLATは、DCF法におけるフリーキャッシュフローの構成要素として算定されるケースが多い。NOPLATは、キャッシュフロー化(運転資本増減、減価償却費やCAPEXを反映)する前の財務会計上の数値である。
◆日本の「営業利益」概念を前提に計算すると誤ったバリュエーション結果を導くため注意が必要である。NOPLATやフリーキャッシュフローといったバリュエーション上の概念は、欧米先進国で開発された。欧米先進国での「営業利益(Operating Profit)」は、日本で言うところの「税引前利益」に近い。そもそも欧米では、本業以外の活動をしてると株主から非難を浴びたり、自社の強みに集中する方が得策という考え方が浸透しているためである。一方、日本では、政府優遇策、節税や財テクなどを目的とした本業外の活動が許容されやすい環境にあるため、このような違いが生まれる。PL上の「営業利益」を起点に計算すると、バリュエーションの結果が過小評価につながるリスクがある。
◆ 事業価値の構成要素に限定する必要性
▽ 営業外損益や特別損益も考慮する必要性:企業の事業活動全体から得られる営業利益以下の損益(経常的な政府補助金等)も含めることで、事業価値を正確に評価する必要がある。
▽ 非事業用資産に関係する利益を除く必要性:企業が保有する非事業用資産から生じる利益は、バリュエーション上は別途時価評価して加算するため、NOPLATで加味すると二重計上となる。
▽ 非継続事業に関係する利益を除く必要性:廃止する(した)事業から得られる利益を将来キャッシュフローに加えるべきではない。これらのうち事業計画期間中に発生するキャッシュフローは別枠で捉え、現在価値にし「非継続事業の価値」として加減すべきである。
▽財務関連費用を除く必要性:財務活動に起因する費用(利息費用など)は、事業価値と分離して考えるため、除外して計算する。財務費用の価値は有利子負債の金額に含まれる(即座に返済すれば利息費用は発生しないので有利子負債の時価評価額は額面で問題ない)ためである。また、節税価値があるため、WACCに反映するか、APV法で節税価値を分離して評価する必要がある。
▽非経常的な要素を除く必要性:DCF法における将来キャッシュフローは、経常的な要素のみで構成されたNOPLATを起点にして算定されるべきである。非経常的(臨時異常な原因、一時的な原因)の利益は考慮外とすべきである。
◆ 実際の税額ではなく実効税率で算定した架空の税金を引く必要性
▽ 本業の税金に限定:NOPLATは、実際に納付される税金ではなく、企業の主たる事業活動から生まれる利益(所得)に対する税金とする必要がある。実効税率(財務会計上の利益に対する、税務上の所得に生ずる税金の比率)を用いて調整後の税金額を算出して控除する。実際の税金額との差額は、非事業用資産、非継続事業の価値、有利子負債の評価において考慮されるため、過不足などの問題は生じない。