◆その他の労働力調達契約とは、雇用契約以外の形態で労働力を調達する契約で、派遣契約、アウトソースやフリーランス等が含まれる。
◆正規雇用等と比較して、必要なスキル保有者(高スキルから低スキルまで)を特定目的(高度目的から低位目的まで)に応じ柔軟に確保したり、社会保険加入が不要である調達形態が多いなど、企業側にメリットが多い一方、その労働の実態(指揮命令権の有無等)次第では偽装請負等の法的リスクや労働者との間でトラブルに発展する可能性というデメリットもある。オーナー企業が自己責任の範囲でリスクを取るのは自由であるが、少なくともM&Aという外部の厳しいチェックが入る取引を予定する売主で、高額売却を目指す場合、一連の売却準備の中でその実態を慎重に検証し、必要に応じ、時効や想定ダメージを踏まえて適切に対策すべきである。
契約の種類 | 定義・特徴 | 契約期間 | 社会保険の適用 | 解雇・契約終了 |
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労働者派遣契約 | 派遣元企業が雇用する労働者を派遣し、派遣先企業で業務を行わせる契約。指揮命令は派遣先企業が行う。 | 3年ルール 5年ルール 無期雇用派遣 | 適用 (派遣元企業) | 派遣の中途解約は原則不可 |
業務委託契約(委任契約) | 企業が業務全般(法律行為)につき外部スキル保有者に委任する契約。弁護士や公認会計士等の専門家への委任、FA契約やM&A仲介契約も含まれる。指揮命令権はない。 | 案件ごとに定める | 不適用 | 契約期間満了で終了 |
業務委託契約(準委任契約) | 企業が業務全般(法律行為以外)を外部のスキル保有者に業務を委任する契約。労働時間・作業過程に対し報酬が発生。診療契約やSES契約も該当する。 | 案件ごとに定める | 不適用 | 契約期間満了で終了 |
業務委託契約(請負契約) | 業務の完成責任を負う業務委託契約。成果物の納品が必要。指揮命令権はない。 | 案件ごとに定める | 不適用 | 成果物納品で関係終了 |
業務委託契約(フリーランサーとの契約) | 主に個人との間で業務の委任/準委任/請負を約する契約。指揮命令権はない。 | 案件ごとに定める | 不適用 | 契約期間満了で終了 |
インターンシップ契約 | 学生が実務を経験するための契約。無償や有償があり、教育的側面が強い。 | 期間限定 | 条件により適用 | 期間終了で関係終了 |
【Plus】M&Aで高い評価を得るための準備
契約の透明性と明確化:業務範囲・責任の所在等を契約書に明記しておく。例えば、派遣契約で指揮命令関係の曖昧さを排除しておく、といった労務情報管理をしておくことで、買主は安心して買収できる。他にも、例えば、業務委託契約(委任契約)の報酬体系や解除時の違約条項について、請負契約の成果物に関する定義や検品基準について、契約書に記載し、業務停滞やトラブルのリスクを最小化する。
外部リソースの有効活用:特にスポット業務や高度専門性業務は、必要スキルを有する人材の正規雇用が困難だったり、確保できても給与が高額になりやすい。そのため、雇用以外の調達方法を積極的に活用するメリットが大きくなる。高品質業務と費用対効果を両立できていることをアピールできるよう準備する。
コストパフォーマンス向上:IT開発業務など開発期間や成果物の仕上がりも千差万別、開発者間による競争が激しく、情報の非対称性が強い業務領域では、開発業務を担う法人に業務委託するより個人フリーランスに依頼する方が、合理的なケースもある。特に小規模開発の場合に当てはまりやすい。必要なのはスキル人材への報酬であるが、法人の場合、各種販管費やオーナー利益を上乗せしないといけないためである。独立や副業が発展している場合、企業がフリーランスの人選で成功しやすく、法人が用意する業務執行者よりも能力が高いケースも多い。つまり、法人に依頼するより業務品質が高く、費用も圧倒的に抑制できる場合がある。
リスク分散の取り組み:特定の法人・個人への依存度を低減し、同一者に継続依頼できなくても問題が生じないようにしておく必要がある。複数者との契約を並行したり、補欠を確保しておく、過去の成果物の引継ぎがスムーズにできるよう開発工程や成果物を第三者が理解できる程度の粒度で文書化しておく等のバックアッププランを用意しておく。
【Plus】M&Aで低い評価を避けるための準備
偽装請負リスクの排除:委任契約、準委任契約や請負契約は、その指揮命令や必要経費負担等の実態次第で偽装請負(実態は労働者派遣)とみなされ、多額の未払賃金や未払社保労保の負担が生じるリスクがある。企業が業務執行者(派遣労働者やSE等)に対して指揮命令している、とみなされないよう、仮に労基署に指摘されても反論できるようにしておく。
派遣法等の遵守:労働者派遣法や下請法等関連法令に従い、契約期間や業務範囲を正確に管理する。特に法制度が充実している派遣契約は、3年を超えて同一事務所で勤務する場合、正規雇用義務(3年ルール)が生じる等の明確なルールがあるため、契約の締結時や更新時に注意が必要である。
成果物の明確化:請負契約では、成果物の定義や検品基準が不明瞭な場合、責任の所在が不明になり、時間とコストが無駄に終わるリスクがある。請負契約書には、成果物の仕様、納品期日や検品基準等を明確に記載し、トラブル発生を予防するとともに責任を明確化する。
【Plus】M&A助言とシステム開発に関する業務委託契約の類似点
「一流のプログラマー1人の方が、平凡なプログラマー100人よりも良い仕事をする」と言われる。その理由は以下のようなものである。おそらく1つでも欠けていたら平凡なプログラマーになってしまう。大手SIerに依頼したはずなのに、いつまで経っても完成しない、と言った経験はないだろうか?
1. 膨大な高度に専門的な知識と技能が必要
2.顧客の求めるニーズ(顧客企業の業務の目的・内容・リスク等)を正確に理解する能力が必要
3.顧客の求めるニーズに影響を与える外部環境を正確に理解する能力が必要
4.膨大な情報を頭脳にインプットして保存する記憶力が必要
5.解決策を考案するために有益な情報を頭脳から検索抽出し上手に組み合わせる能力が必要
6.顧客担当者等から必要な情報を引き出し、伝える能力が必要
7.ITの世界では物理的な制約がなく、短いプログラムで大胆なショートカットや不可能を可能にすることができる
M&AアドバイザーとITプログラマーの違いは、7.物理的制約の強さくらいである。おそらく1人対100人ほどの差は生まれない。しかし、その売主へ与えるインパクトは、ITプログラマーの比ではない。1つのITシステムの出来不出来と、売主オーナーが受け取る成果(売却代金、対象企業の将来への期待、将来の契約上の効果に対する期待や不安など)が数倍になるインパクトでは、圧倒的に後者が重い。
実際のところ、「情報の非対称性」が働きやすいITプログラマー選定は難しい。「上記の1~7の能力を持っているか」を判別することは容易ではない。専門資格等の参考情報はあるが、所詮は「一問一答の当てはめ問題を間違えない能力」に過ぎず、一番大事な5.創案力や実行力は分からない。M&Aアドバイザー選びでも同じ問題が起こり、結果「よくわからないから大手を選ぼう」「営業してきた人(紹介された人)が親切で丁寧だったからその人にしよう」などの「思考停止による選定ミス」を犯してしまう。行動経済学の形で注意喚起されているが、おそらく人間は永久に同じ間違いを繰り返す。
重要なのは「質問力」である。能力を保有しているか「質問をして回答の中身で判断する」しかない。そうなると次に問題になるのが「どうやって質問力を身に着けるか」である。高度に専門的な知識について部外者が真っ向から質問することは難しい。そのため、例えば「過去の成功事例でどのような貢献をしたのか」などのふんわりした質問をして「この人は成功をどのように定義しているか」「成功するためにどのような努力や工夫をしたか」を聞くという方法がある。多くの無能な自称プロは「成功=言われたことをやる」だったり、「努力=先輩に言われたことをやる」だったりする。
M&A契約(FA契約やM&A仲介契約)は、契約書の文言だけを見ると大差ないように思える。極端な話、M&A仲介契約は、欧米で洗練され日本に輸入されたFA契約をベースとして「顧客の取引相手(売主が顧客なら買主が取引相手)とも契約し報酬を貰ってよい、その利益相反リスクを不問にすることについて顧客の承諾を得ている」だけである。似ていても、業務内容の範囲や品質は、全く異なるケースが多い(上記の1~6で桁違いの差があることは珍しくない)し、なにより利益相反のリスクは甚大である。中小零細M&A(ビジネスブローカレッジ案件)でトラブルが頻発するのは、倫理欠如、能力不足の素人によるサービス提供の影響もさることながら、利益相反問題という構造にも大きな問題があるからである。